hellog〜英語史ブログ

#575. 現代的な punctuation の歴史は500年ほど[emode][punctuation][printing]

2010-11-23

 昨日の記事[2010-11-22-1]に引き続き,punctuation 「句読法」について.punctuation の歴史は書き言葉の歴史と同じだけ長いと考えられるが,本記事では現代英語の punctuation の直接の起源と考えられる近代英語期まで遡る程度で満足することにしたい.
 現在英語で用いられている主要な punctuation が徐々に出現し,現代的な慣用が発達してきた最初期と考えられるのは15,16世紀のことである.それ以前の中世でも写本の読み書きが行なわれており,punctuation 自体は様々な形で活用されていた.むしろ,印刷でなくすべて手書きであるために現代とは異なる数々の特殊な punctuation が存在していた.実に現代にまでに失われた句読記号は30を超えると言われる ( Crystal, p. 282 ) .
 しかし,現代的な punctuation の発達には印刷術の発明を待たなければならなかった.1475年,Caxton により英語印刷が始まると ( see [2009-12-24-1] ) ,綴字や punctuation が次第に固定化の動きを示すようになる(逆の議論については[2010-02-18-1]の記事を参照).この時期に period, colon, semicolon などの慣用が広まっていった. しかし,固定化の動きといっても中世の多様性に比べればという程度であり,決して体系的ではなかった.また,何よりも punctuation の基本的な発想はいまだ prosodic あるいは oratory だった.17世紀以前の punctuation は,いまだに主として韻律,雄弁,修辞に動機づけられており,効果的な音読を可能にするための便法という色彩が強かったのである(昨日の記事[2010-11-22-1]で述べた機能 (2) に相当).
 ところが,17世紀に入ると punctuation は prosodic な発想から現代風の grammatical な発想へと変容する(昨日の記事の機能 (1) に相当).これには,劇作家・文法家 Ben Jonson (1572--1637) の功績が大きい.17世紀以降,exclamation mark, quotation marks, dash, apostrophe などの新句読記号も続出し,18世紀末までには英語の punctuation は現在の組織に達した.18,19世紀には punctuation を多用する heavy style が一般的だったが,現在ではあまり punctuation を用いない light style が主流である.電子メール文化などを背景に,現在も新たな punctuation の体系が生まれつつある.現代的な英語の punctuation の歴史はたかだか500年.今後も新たな句読法が育ってゆくことになるだろう.

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.
 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.

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