hellog〜英語史ブログ

#490. アルファベットの起源は North Semitic よりも前に遡る?[grammatology][alphabet]

2010-08-30

 [2010-06-24-1]でアルファベットの歴史の概略を記した.今回は,最近見つけたアルファベットの歴史に関する良質なブログ記事を紹介したい.The origins of abc は紀元前4千年紀にシュメール人が用いた楔形文字 ( cuneiform ) から話しを説き起こし,それから5千年後の英語の26文字のアルファベットの使用までの歴史を,写真や図を含めて興味深くまとめている.このサイトの運営者は graphic designer で,typography に夢中な日本在住のイギリス人.現代の <A, a> の1文字ができあがるまでに長い道のりを歩んできたことが要領よく解説されている.
 記事によると,アルファベットの究極の起源は,[2010-06-24-1]で述べた紀元前2千年紀前半にパレスチナやシリアで行われていた North Semitic ではなく,もう少し早い時期のエジプトの文字に遡るのではないかという.1999年にエジプトの Wadi el-Hol で 2片の碑文が発見され,そこに後の <A> の文字の起源となる牛の頭をかたどった 'aleph 「牛」の文字が刻まれていたという.(セム語で 'aleph は「牛」を意味し,「家」を表わす beta と合わせてそれぞれ第1文字,第2文字とされ,この文字体系は alphabet と呼ばれることになった.)紀元前19世紀頃にエジプトの地で発達したこの文字体系が,パレスチナやシリアに伝わり,従来アルファベットの起源とされてきた North Semitic に連なったのではないかということである.
 現代のローマ字の abc という並び順は古代セム語の順番を踏襲したものだが,その意味や解釈に定説はないようである(橋本,p. 52).ふだん英語史として扱っている時代範囲はせいぜい紀元後の話しである.だが,アルファベットの歴史,文字の歴史の世界に足を踏み入れると,紀元前○千年紀という目の眩む太古の世界に誘われることになり,どうも頭が追いついていかない.同僚にシュメール語の研究者がいるが,古英語や中英語の話しをしていると自分が赤ん坊のような気分になってくることがある.人類の文化の歴史は長い.

 ・ 橋本 功 『英語史入門』 慶應義塾大学出版会,2005年.

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