昨日の記事[2010-03-18-1]で,mandative subjunctive がアメリカ英語のみならずイギリス英語でも勢いを増してきていることに触れた.英語史の大きな流れからすると,屈折の種類は減少する方向へ推移し続けていくだろうと予想されるところだが,mandative subjunctive が拡大している状況を知ると,大きな流れのなかの小さな逆流を見ているかのようである.100年以上も前,Bradley は英語史の流れを意識して,次のような予測を立てていた.
The only formal trace of the old subjunctive still remaining, except the use of be and were, is the omission of the final s in the third person singular of verbs. And even this is rapidly dropping out of use, its only remaining function being to emphasize the uncertainty of a supposition. Perhaps in another generation the subjunctive forms will have ceased to exsit except in the single instance of were, which serves as a useful function, although we manage to dispense with a corresponding form in other verbs.
約100年後の現在,Bradly の予測がみごとに外れたことがわかる.ではなぜ,しばしば drift と呼ばれる英語の屈折衰退の傾向に対して,逆行するかのような言語変化が起こっているのか.これは今後の研究課題であるが,英米差であるとか米から英への影響であるとか以外にも,考えるべきパラメータは多そうである.浦田和幸先生の論文を読んだが,そこから思いつく限りでも,以下のパラメータが関与している可能性がある.
・ that 節を従える動詞の語義(特に insist, suggest などは factive な語義と suasive な語義が区別されるべき)
・ that 節内の動詞が,be 動詞か一般動詞か(一般に be 動詞の頻度が高いといわれる)
・ 文が否定文かどうか
・ 文が疑問文かどうか
・ that 節内の be が not で否定されている場合の,両者の統語的な前後関係
・ 話者の年齢
・ 語用の formality
・ that 節内の主語(動作主)の volition
・ that 節を従える動詞から派生した名詞とともに使われる mandative subjunctive の頻度
・ Bradley, Henry. The Making of English. New York: Dover, 2006. 95. New York: Macmillan, 1904.
・ 浦田 和幸 「現代イギリス英語に於ける Mandative Subjunctive の用法」 『帝京大学文学部紀要 英語英文学・外国語外国文学』18号,1987年,123--36頁.
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