hellog〜英語史ブログ

#313. Canadian English の二峰性[canadian_english]

2010-03-06

 カナダ英語 (CanE) についてよく指摘される特徴として,アメリカ英語 (AmE) とイギリス英語 (BrE) の両方の特徴が混在していることが挙げられる.CanE の発音は概ね AmE に沿っている点で,両変種の上位に Northern American English という変種を設ける場合もある.しかし,綴字や語法などでは BrE に従うことも少なくなく,全体として CanE は英米変種の混合のように見えることは確かである.
 この状況は,歴史的に説明される.アメリカ独立戦争では必ずしもすべてのアメリカ人がイギリスに対抗したわけではなく,Loyalists と呼ばれるイギリス支持派も存在した. アメリカ独立後,Loyalists は Nova Scotia などのカナダ方面に逃れ,後のカナダ英語の形成に大きく貢献した.イギリスとの親密な連携が伝統的に続いていることが一つ,絶大な影響力を誇る隣国アメリカとの日常的な接触が一つ,この二つの背景が絡み合って,カナダ英語が現在の姿へと発展してきた.
 昨日の記事[2010-03-05-1]で典型的な文法上の英米差を列挙したが,それを同僚のカナダ人(音声学者)に尋ねてみたところ,ケースごとに AmE 的だったり BrE 的だったりとまちまちだった.昨日の記事の連番と対応させて,同僚カナダ人の示した反応のうち特に興味深かったものを挙げる.

(3) AmE 型に,集合名詞には単数で一致する.BrE 型を用いる習慣はない.
(4) BrE の口語できかれることのある They insist that she accepts the offer. のような直説法の使用は「とんでもない」とのこと.
(7) AmE 型の二人称複数代名詞 y'all は,家庭では regular に使用する.
(8) Have you eaten yet? などの文で,現在完了と過去を場合によって使い分ける.Did you eat yet? を用いるのが普通だが,If no, then will you eat? などを含意する場合には現在完了を用いる.
(9) look out (of) the window では AmE 型( of なし)を用いるが,get off (of) the sofa では BrE 型( of なし)を用いる.(彼の英米間の分裂症を指摘してあげたところ,自分は怠けものだから一貫して短いほうを選んでいるのだ,とか・・・)
(10) dived ではなく dove を使う.rangrung も両方用いるが,書くときは絶対に前者.sanksunk も同様.しかし,swam の代わりに swum とは言わない.

 もちろんカナダ英語と一括りにすることはできず,様々なレベルの変種がありうるだろうが,カナダ英語の混合性がよく示されている.Chambers は英米両変種の混在を「二峰性の伝統」 ( bimodal tradition ) と呼んでいる.

Why do we find ourselves in this apparent state of confusion? As in so many other dilemmas, it follows from the crux of our history as British North America. Our venerable historical allegiance to Britain pulls us one way but our geographical attachment to the United States pushes us the other. . . . English spelling conventions were stabilized in England just before the American Revolution and then reformed in the U.S. at a time when belligerence had cooled into disdain. The result was not exactly two traditions but a bi-modal tradition. (cited from Chambers in Svartvik and Leech, p. 97)


 ・ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006.

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