hellog〜英語史ブログ

#295. blackBlake[etymology][inflection][doublet][meosl]

2010-02-16

 人名で Black さんと Blake さんに語源的な関係があることを最近になって知った.考えてみれば,かつての母音が短母音だったか ( /blak/ ),あるいは長母音だったか ( /bla:k/ ) の違いにすぎない.長母音をもつ異形は,後に大母音推移を経て /bleɪk/ の発音になった.
 中英語では,名詞や形容詞で,閉音節・一音節の形態と開音節・二音節の形態が交替することがあった.例えば,現代英語の hole に相当する中英語の形態としては hol /hol/ と hole /hɔ:lə/ があり得た.このような異形態が存在するのは,古英語の段階で,単数主格・対格では hol という閉音節・一音節の形態が,それ以外では複数主格・対格の holu など開音節・二音節の形態が,区別して用いられていたことに起因する.古英語の形容詞 blæc も屈折によっては blæce, blacu など開音節・二音節の形態が生じたが,この区別が中英語以降にも異形態として引き継がれ,現在の blackBlake の二重語のペアを生み出したということになる.総じて,名詞は holegate のように歴史的に開音節・二音節だった形態が生き残り,形容詞は blackglad のように歴史的に閉音節・一音節だった形態が生き残ったという ( Görlach 63 ).
 だが,black については語源を詳しく調べてみると,もっと込み入った状況があったようである.古英語には,blæc "black" の他に語源を一にする blāc "bright, pale, white" なる形容詞が存在し,中英語に至って両者の形態がマージし,意味の上でも混同が起こってくる.「黒」と「白」が合流してしまうというのだからただごとではない.
 両語とも,印欧祖語の *bhel-, *bhleg- に遡り,原義は "to shine, gleam" である.「白く燃え光る」から「焦げる」を経由して「黒くなる」というのだから,なるほど「白」と「黒」にはこのような因果関係があったのだなと感心.ここから,bleak 「荒涼とした,暗い」や bleach 「漂白する」も派生しているから,なおさら感心だ.
 とここで最初の問題に戻るが,Black さんと Blake さんのあいだに語源的な関係があることはわかったが,(もし肌や髪の色などにちなんで名付けたのであれば)どちらが黒くてどちらが白かったのだろうか.あるいは,両者とも黒あるいは白だったのだろうか.意味も形態も混乱していたのであれば,解決の糸口はないか・・・.

 ・Görlach, Manfred. The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997.

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