hellog〜英語史ブログ

#232. 英語史の時代区分の歴史 (1)[periodisation][germanic]

2009-12-15

 [2009-10-02-1]の記事でアメリカ英語の歴史の三区分を紹介したときに,「言語史家を含め,歴史家は三区分するのが好きなようで」あり,三区分は「言語の進化を強く意識した19世紀のモダニズム的発想」であると述べた.(イギリス)英語史も慣習的に Old English, Middle English, Modern English ( Present-day English を含めて )と三区分されるし,三区分の背景には何かがありそうである.Lass が "triadism" 「三区分主義」あるいは "triadomany" 「三区分病」と呼んでいる考え方が,どのように言語の時代区分の議論に入り込んできたかを考えてみたい.今後数回の記事は Lass の論文に沿った要約ノートの体裁になると思われるので,先に断っておく.
 "triadomany" の開始は,ゲルマン比較言語学の大家 Jacob Grimm に帰せられる.グリムの法則(grimms_law)で有名なこのドイツのロマン主義者は,Gesetz der Trilogie 「三部作の法則」の信奉者であり,ドイツ語の歴史を Althochdeutsch "Old High German" , Mittelhochdeutsch "Middle High German", Neuhochdeutsch "New High German" と三区分した.この考え方が,英語を含む他のゲルマン諸語にも適用された.
 Grimm (274) は,言語史の時代区分のみならず,言語そのものに「三つ組」が満ちていると考えた.

男性女性
単数双数複数
人称一人称二人称三人称
能動態中動態受動態
時制現在過去未来
絮????a-stemi-stemu-stem


 しかし,ここには欺瞞がある.[2009-10-26-1]で見たように,ゲルマン語には形態的に未来時制はない.また,屈折クラスとしては,他にも ō-stem や各種の consonant-stem もある(特に前者は主要なクラスである).それでも,Grimm は「三」の力を強く信じていたのである.

 ・Lass, Roger. "Language Periodization and the Concept of 'middle'." Placing Middle English in Context. Eds. Irma Taavitsainen, Terttu Nevalainen, Päivi Pahta and Matti Rissanen. Berlin and New York: Mouton de Gruyter, 7--41. esp. Page 12.
 ・Grimm, Jacob. Geschichte der deutschen Sprache. Leipzig: Hirzel, 1848.

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