hellog〜英語史ブログ

#188. 名前動後の起源[stress][diatone][oe][conversion][prosody]

2009-11-01

 受験英語業界で「名前動後」と呼ばれる現象がある.現代英語では,綴りは同じだが品詞の異なる語が存在する.特に名詞と動詞のペアの場合,名詞ではアクセントが前の音節に,動詞ではアクセントが後ろの音節に落ちることがあり,こうしたペアを「名前動後」と呼んでいる.英語では「名前動後」に相当する便利な名称はなく,次のように説明的になってしまう.

diatonic homograph pairs that exhibit the alternating stress pattern between noun (paroxytonic) and verb (oxytonic)


 例を挙げるとキリがない.

absent, accent, addict, annex, combat, combine, concert, contract, contrast, convert, discard, discount, discourse, dismount, export, finance, implant, import, intercept, interchange, misprint, object, overturn, permit, protest, reject, research, retract, transplant, transport, etc.


 英語は,初期中英語期に起こった屈折語尾の消失により,容易に品詞転換 ( conversion ) の可能な言語となった.これは言語としては希有の現象であり,特に近代英語期以降,語を派生させるのにフル活用されてきた.名詞と動詞で綴りが同じであることはこれで分かるとしても,両者のあいだでアクセントの位置に区別がつけられたのはどうしてだろうか.
 その淵源は古英語,いやそれ以前にある.
 昨日の記事[2009-10-31-1]で見たように,古英語の単語では原則として第1音節にアクセントが落ちたが,接頭辞による派生語では,その接頭辞が強形として使われているか弱形として使われているかによって,アクセントの位置が変わった.接頭辞が強形として用いられている場合にはその接頭辞にアクセントが落ち,弱形として用いられている場合には語幹の第1音節にアクセントが落ちたのである.興味深いのは,派生名詞の接頭辞には強形が,派生動詞の接頭辞には弱形が,体系的に付加されている点である.以下,対応する派生名詞と派生動詞のペアを,アクセントの位置に注目して比べてみよう.

名詞動詞
ˈǣwielm "fountain"aˈweallan "to well up"
ˈæfþunca "source of offence"ofˈþyncan "to displease"
ˈætspyrning "offence"otˈspurnan "to stumble"
ˈandsaca "apostate"onˈsacan "to deny"
ˈbīgenga "inhabitant"beˈgān "to occupy"
ˈorþanc "mind"aˈþencan "to devise"
ˈwiþersaca "adversary"wiþˈsacan "to refuse"


 「名前動後」のモデルの起源は,すでに古英語に存在したのである.

 ・Campbell, A. Old English Grammar. Oxford: OUP, 1959. 30--31.

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