言語学・言語獲得研究の入門書


初学者や、分野にあまりなじみがない人向けに選んでみました。

興味を持っているトピックの本を選びたくなるのは自然なことだと思いますが、あまり特定の話題に偏ったものから読み始めてしまうと「今読んでいる分野・理論=言語学」という誤解につながりがちで(専門家になりたい人にもそうでない人にも)よくないのではと思います。

まず「言語学とはどういう学問なのか」「どんな下位分野があるのか」などの
全体像をつかみましょう。
言語学一般

「言語学への招待」 中島平三・外池滋生 編著 1994年 大修館書店 2000円
とにかく言語学の本を読むのがこれが初めてということでしたら これがよいかと思います。広く浅くいろんな分野の紹介があります。 ただし、学術書をよく読んでいる人だとあまりにも広く浅すぎてつまらないかも。

「言語の科学入門(岩波講座・言語の科学1)」松本裕治・今井邦彦・田窪行則・橋田浩一・郡司隆男 
1997年 岩波書店 3600円

ちょっと堅い書き方ではありますが、言語へのいろいろなアプローチが まんべんなく紹介されています。多少学術書に慣れている人向け。このシリーズは、専門家の間でも評価が高いようです。


一般書(だけど、やや生成文法寄り)

「言語を生み出す本能(上・下)」スティーブン・ピンカー 1995年 NHKブックス 各1280円
原著:Pinker, S. (1994) The Language Instinct, Harper Perennial, New York.

一般読者向けに書かれています。ちょっとやわらかめのアプローチですが、書いてある内容はとても重要だと思います。英語が読める人 なら、絶対に原著「The Language Instinct」の方がおすすめです(原著はかなり「笑える」楽しいスタイルなのですが、翻訳版はちょっと堅苦しい感じかも)。原著はNY Timesベストセラーになった本です。

「言語の脳科学:脳はどのようにことばを生み出すか」
 酒井 邦嘉 2002年 中公新書 900円
最近出た本です。言語学の説明があまりにも短く凝縮されているので、初学者の人が読みこなせるか心配ではありますが、 言語学者ではない人から見た言語研究という内容がおもしろいと思います。 手話学についての初歩的な説明あり。


次にもう少し詳しく特定の理論や分野について読んでみましょう。(ここでは生成文法について)
別にどの理論や分野でもかまわないわけですが、私の専門分野の都合でこういうラインナップになりました。
生成文法+言語獲得関係(初級)

「生成文法を学ぶ人のために」中井悟・上田雅信編 2004年 世界思想社 2200円
第1章は近代科学の発展と言語学の発展を対比させた、貴重な解説がわかりやすく提示されています。言語獲得・言語処理などの言語学関連分野の紹介もあります。

「生成言語学入門」 井上和子・原田かづ子・阿部泰明 共著 1999年 大修館書店 2300円
広く教科書として使われています。言語獲得の章もあります。

「言語研究入門・生成文法を学ぶ人のために」 大津由紀雄・池内正幸・今西典子・水光雅則(編) 
2002年 研究社 3500円 

こちらはさらに言語獲得についてより多くスペースをとってあります。

生成文法関係(中級〜上級)

「生成日本語学入門」 長谷川 信子 1999年 大修館書店 1800円
日本語の統語論についてもう一歩踏み込んで勉強したいという人にはこれがいいんじゃないかと思います。レベルとしては学部の上級〜大学院の入門クラスぐらいでしょうか。生成文法でも英語データの分析ばかり習っていて日本語の統語論に疎い人にもおすすめです。この本が出てからもどんどん新しい分析が提案されているわけですが、取り上げられている題材は日本語の統語論において重要なものばかりですし、この中で解説されているタイプの分析についても「基本知識」としてしっかり理解することは大変重要だと思います。巻末の「生成日本語学の基本図書」リストも要チェックです。

「入門生成言語理論」 (第2章・ミニマリスト・プログラム)田中 伸一・阿部 潤・大室 剛志 共著 ひつじ書房 2800円
ある程度生成統語論とそこでよくとりあげられるトピックについて理解しており、「生成文法は結局何を達成しようとしているのだろうか?最近どうなってるの?」という疑問を持っている人におすすめです。「入門」と一応タイトルにはありますが、最後まで内容をかみしめながら読むとすると大学院レベル・もしくは関連分野の他の枠組みを使っている研究者にとっての「入門」と解釈した方がいいかもしれません。データの分析もありますが、理論を支える考え方の解説が中心です。実際の文をあれこれ分析しながら「何のためにこんなことするんだろう」とふと疑問に思った学生さんが読んでみるのもよいかもしれません。

言語獲得関係(初級・生成文法とは違った部分に重きをおくもの)


「子どもたちの言語獲得」小林春美・佐々木正人 編 1997年 大修館書店 2300円
(第二版が出ていますが、かなり内容が変わっていますので、また後日レビューします)
生成文法から離れて言語獲得研究の概観をしたい人には、入門書と してまあまあバランスがとれているように思います。ただ、「文法の獲得」の2つの章は筆者の研究の紹介しかなく、他の章と比べても分野の全体像がつかみにくいのが残念です。

第1章を見ると著者たちはどちらかというとアンチ生成文法の立場をとっている ようですが、こういう議論にも目を通しておくことは生成文法に関心のある人や既にそれを専門にしている人にとって大事なことかと思います。どこで生得論が誤解されているか、誤解されていないにしてもどこでデータの解釈が異なっているか、どこが議論の的になっているかに考えながら読んでみれば、生成文法の心理学における立場についての理解が深まるでしょう。

心理学関係の著者が書くものでは、ときとして(反論が簡単になるようになのか、もともと筆者が完全に理論のポイントを誤解しているのかわかりませんが)生成文法の主張がありえない形に歪められて紹介される場合も少なくありません。(対象となる理論における近年の主要な主張をしっかり理解し、引用もまじえてまとめることはまともな議論を始める前の基本中の基本ではないかと思うんですが。特に反論する場合はより一層の注意を払うべきなのに・・・)上にあげた本の第1章では少なくとも生成文法学者の書いた論文が多少引用されているので、どこで意見が食い違っているのかがまだ見えやすいのではと思います。

言語獲得関係(中級)
「心理言語学」大津由紀雄 (1989)(太田朗〔編〕 『英語学大系6 英語学の関連分野)』)大修館書店
言語使用の創造性、刺激の貧困、ハイアムズの研究についての大変詳しい紹介があります。ちょっとスタイルは固めですが、上にあげた「生成文法+言語獲得関係(初級)」を読み終わったような、予備知識のある人なら大丈夫かと思います

言語獲得関係(上級)
Guasti, Maria Teresa. 2002. Language Acquisition: The Growth of Grammar. MIT Press.
日本語の本でもこういうレベルとスケールのものが出るぐらい分野が活発になるといいですね・・・生成統語論の知識がある人で、母語の獲得研究でどこまでのデータが得られているのか知りたい方に強くおすすめします。やや統語論が中心の内容です。生成文法寄りの獲得研究における有名なトピックはほぼ網羅されているので、分野全体を概観したい人にもよいでしょう。

こちらのリンクものぞいてみてください(重複している書籍もあります)

「言語学概論III」推薦図書(和書)

「英語セミナー(レベル3)」推薦図書(洋書)