2000年3月11日版 科学研究者の別姓使用の<現状と対策> 日本天文学会教育委員 日本学術会議天文学研究連絡委員 加藤 万里子 先日天文学会で実施した女性研究者アンケート調査では、結婚のさいに 戸籍名が変わっても、仕事上の名前を変えない人が多数派でした。いまや 別姓は研究の必須アイテムとなっていますが、実際にはトラブルが絶えません。 私立大学ではかなり自由に旧姓や通称がつかえる大学もありますが、国立 大学や研究機関では、昔に比べればかなり自由になったようですが、まだ 十分ではありません。 ここでは (その1)旧姓が使える場合(前例のあるもの) (その2)別姓使用のトラブルを最小限にする方法 をまとめました。 ************************** *その1 * 別姓(通称)が使える前例集 * ************************** いままでの多くの人々の努力で、いろんな前例ができています。 事務官僚は、『自分が知らない』だけで、前例も勉強せずに、実に気軽に 拒否してくれますし、担当官が新しくなっただけで、今までできていたことが 不可能になった例もありますので、こちらからしっかり要望することが大切 です。 まず重要な2件について ◎科研費の申請 -- 別姓で問題なし。<前例多数> 科研費は就職した時に、文部省から与えられる研究者登録番号の登録名で 出すことになります。この名前は旧姓で申請できます。できなければ、 研究機関の事務が知らないだけです。国立大学、国立研究機関ともに旧姓で 科研費申請が問題なくできた例があります(場合によっては戸籍謄本で 本人確認を大学事務から求められた例はあります)。あいかわらず 文部省の現在の公式見解によると、科研費は研究者登録と同じ氏名に すること、研究者登録は『戸籍名(旧姓)』にしてくれということですが、 文部省が個々の事例について調査したりはせず、個々の大学にまかせていると のことです。 現実には、個々の大学では旧姓で申請できるところは国立私立問わず、多々 あります。文部省はそれを知ってか知らずか、とにかく『関知しない』との 姿勢です。なお、これに関して、文部省の一部の官僚が、問い合わせた女性 研究者に対して、公僕としてふさわしくない、いやがらせのような態度に出た 事例があります。経験された方は加藤万里子までご一報下さい。 今年度から、科研費の一般や奨励などの小口の科研費は、文部省から学術振興会に 管轄がえになりましたが、学振では、研究者登録と同じ名前にしてほしい、研究者 登録については、文部省に問い合わせてほしいとのことです。 現在、文部省に、研究者登録を旧姓だけでできるようにしてほしいという要請状を 準備しています。国会議員も大阪府知事も、表向き旧姓や芸名で通せるように なったのに、研究者だけできないのはおかしいですよね。科研費の大プロジェクトの 代表者になった女性(男性も)が、別姓使用者だったら、文部省は、科研費申請説明 書には『戸籍性(別姓)』で出すんでしょうか??? ◎博士論文提出の名前(学位記に記載される名前) <OK!!> これも旧姓でOK。某旧帝国大学で、わりと最近、旧姓のみで出た例があります。 戸籍名(旧姓)や旧姓(戸籍名)の例もあります。また、東大は、2000年度から 全学部で旧姓併記が可能になりました。 文部省によれば、博士号は大学が出すものなので、名前の判断は各大学の 判断によります。大学から出た書類が旧姓でも、文部省はクレームは つけません。(大学局大学院科に確認) ですから私立大学ではかなり自由な ところもあります。 大学によっては、今だに戸籍名でなくてはいかん、と言う大学も ありますが、それは事務(と教授たち)の理解が足りないだけです。 他の論文がすべて旧姓で書かれているのに、博士論文だけ戸籍名では、 個人の特定が難しくなります。旧姓併記で学位記が出たところはいくつも あるし、認める方向で議論しているところは、複数あります。 ---------------------------------------------- 学生、研究生の場合(旧姓が使えた例) ---------------------------------------------- (国立大学の前例:旧帝大です) 博士論文(と学位記) <-- 上記の通り、大変な努力と好運が必要です。 大学院生の学生証 研究生証 授業料免除の書類の家族の氏名欄 (私立大学の例) 学生証の名前 -- 私立大学では、旧姓や通称(在日韓国・朝鮮籍の人など)で 学生証を発行する大学があります。 --------------------------------------------- 研究者(給料とり)の場合 国立研究機関・大学で使用例があるもの (併記でなく旧姓のみの場合です) --------------------------------------------- 教授会や会議で使う名前(文書も含む) 教務関係書類,学生便覧,授業時間割表など 電話帳、住所録 科研費申請書 論文の氏名(紀要,雑誌) 研究計画や研究予算の申請書、年報、要覧、 特許の発明者名(特許の登録補償金・実施補償金の請求に当たっては 所長印のある旧姓証明書を出してもらう) 共同研究の研究成果を共同出願する際の発明者名 共同研究、技術指導の担当者名 実習生の受け入れ担当者名 流動研究員、外国人研究者の招聘受け入れ担当者名 外部発表届者名 学会発表、論文発表の発表者名 「学会への参加登録費」の支払い者名および領収書の宛名 研究所内外の各種委員会の委員名 (ただし人事異動通知書が交付されるものは除く) 校費での高額の物品購入や製造契約, 職員組合, 所内の連絡 出張命令!!! ----------- 蛇足 ----------- 住宅手当などの金額が、住民票上の世帯主と非世帯主で違う場合 (これは男女雇用機会均等法違反ではないかと疑っていますが、慶應義塾はそうです) この場合には、住民票の世帯主を自分の名義にすれば給料が増えます。 独身で親と同居している人でも、独立した給料とりで世帯が違うと市役所に 届け出れば、別世帯にできます。 ただしお役所は、男性を世帯主にしたがる(強制するところもある!)ところ もあるので、手続きのさいに注意が必要。 ************************** *その2 * 別姓使用のトラブルを最小限にする方法 * ************************** ◎もっとも簡単な方法は、結婚しても国に婚姻届を出さないこと。つまり 事実婚です。結婚式をしてみんなに祝ってもらうことと婚姻届は無関係 です。結婚は個人のもの。若手研究者を中心として、じわじわ増えて います。みんなでやれば恐くない! ◎次に簡単なのは、大学や勤務先の事務に秘密にしておくことです。研究 室の人々が知っていても、人事課が知らなければ、旧姓使用は思いどおり です。全く問題はおきません。結婚祝いは事実婚でももらえますし、産休も とれます。 念のために、婚姻届を出すまえに、独身として住民票や戸籍抄本などの 予備をストックしておき、少しの間はそれでごまかしましょう。 ◎(注)結婚前にパスポート(10年)を取得しておくこと。そのまま使うの です。 ◎ 結婚と離婚をくりかえす手もあります。戸籍関係の書類が必要になる たびに1日だけ離婚して、次の日に婚姻届を出すのです。婚姻届は紙の 上のもの。幸せは自分のもの。この柔軟な発想と実行力は、研究者として 大切ですね。馴れれば手続きなんて面倒ではありません。 -------------------------------------------------------------- では、婚姻届を国に出した人や、こっそり出したのにバレた場合には どうするか。 ------------------------------------------------------------- それはもう堂々と戦うしかありません。別姓併記のパスポートを取得する のは可能ですが、手間が大変です。これらの手続きは戦いであると 思っていたほうがよいでしょう。 ◎ 戸籍名が変わっても、何もしないで済むもの(したい人はして下さい) 銀行口座など -- 名義をわざわざ書き替える必要はありません。そのまま 維持できます。 VISA カードなど -- そのままでOK。何回結婚や離婚をくりかえしても、 『届け出さえしなければ』同じカードが使えます。 運転免許の更新 -- 引越ししなければ、住民票を出す必要がないので、OK。 パスポート -- 途中で結婚した場合には、そのまま期限が切れるまで 使うこと。更新の時には、別姓併記の申請をすれば、括弧 して旧姓が入ります。大変な苦労をした先達のおかげで、 ハイフンつきのパスポートも可能です。 ◎ 手続きが必要なもの 民間の生命保険 -- 本人や受け取り人の戸籍名が変わると、書き換えの 手続きをしないと、保険金が受け取れなくなります。
具体的な注意あれこれ:
留学時のビザ取得上の注意(イギリスの場合)
(事実婚夫婦の注意点)
事実婚の場合の家族ビザ取得や、国交のない国へ行くときの別姓併記の
手続きは繁雑なので、
トラブルに気をつけて下さい。