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留学ビザのトラブル(イギリス)
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事実婚の別姓夫婦の場合、留学のためのビザ申請でトラブルのある
場合があります。生物学関係の研究者MOさん(国立研究所勤務)から
詳細報告をいただきました。

 (加藤のコメント:何と言う理不尽なことでしょう。本人まで行けなくなって
しまうなんて。お役所はどこの国でも担当官の頭が硬すぎるのでしょうか?
各国の領事館の方は、日本の事情をぜひもっと勉強していただきたいです。
トップページにリンクしてある、女性研究者問題アンケート調査の結果も
見て下さい。日本でも研究者は別姓があたりまえなのです。)

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                                                   2000年4月
昨年の今頃,ちょうど文部省の在外研究員が決まり,1年ロンドンの
研究機関に留学できることになりました.僕の専門は生物物理で,タンパクが
配列から形を作るメカニズムを理論的に研究しています.妻は大学院博士課程で
社会学を専攻しながら,別の短大の非常勤講師を何本かこなしており,当初は
僕だけしかいけないかなあ?,なんて言っていました.

ところが,上手い具合に妻が短大の講議を半期休めることになり,僕の仕事も
冬ころ人に渡せそうだったので,2月から8ヶ月一緒にロンドン暮らしが
できることになりました.子供が2人いますが,こちらの転入などもできそうです.

しかし,問題があって,ウチは別姓家庭です.1度結婚した後子供を2人作っ
て1人づつ分けました.変則型です.僕は今まで会社勤めなどをしたこともあ
るし,その都度この問題でできるだけ交渉して,例えば大阪の研究所に単身出
向した時も半年後に単身赴任手当てをもらえるようにするなど,がんばってき
たつもりです.配偶者特別控除は貰えませんけど,他の手当てなど交渉すれば
もらえるようになってきました.以前いた会社も柔軟だった(になった?)け
ど,文部省もかなり柔軟に対応してくれます.

それで,イギリスはどうか?が問題です.
僕はどこでどう思ってしまったのか,イギリスは事実婚に寛容であると思い込んで
いました.確かに国内は寛容そうです.しかし,入国審査では別でした.
これを知らなかったのが最大の失敗です.

御存じの方も多いと思いますが,イギリスのビザは入国査証と滞在許可の2つの
ビザがあります.僕のように1年で帰国する場合,入国査証は必要ありませんが,
日本の英国領事館では”入国審査を円滑に行うため”取得を勧めています.そこで,
別姓の問題もありますから,査証を取得してから審査に備える方針をたてました.
これが第2の失敗です.

領事館に書類を揃えていったところ,私達は結婚してませんから,妻が僕の家族と
して入国することは非常にきびしい,と言われました(ダメと断言しないのも
おかしいですよね..ダメなんだから).そもそも,
日本の場合,結婚証明と同一戸籍が合体していることに問題があり,名が違っても
結婚証明があれば,問題はないはずなんですけど,今はとにかく,別姓夫婦は
夫婦として認めて貰えません.そこで戸籍が同じ私と息子のみ書類を提出して
妻と娘は別の形で入国することを考えました.しかし,ここにも落とし穴があり,
僕が揃えた書類の僕のmarriage state がmarried になっていたのです.妻の書類を
どう処理するかにばかり頭が行っていて,自分の書類の内容まで頭が
及びませんでした.また,子供をアタッチメントにする場合,女親の方が受けが
良いようです.籍が同じという理由に縛られて息子をくっつけてしまった,
これが第3の失敗です.

1回目の面接で,1通り研究の話をした後,妻の話がでました.
僕は別姓問題について説明したつもりなんだけど,それも却って悪かったようです.
また,この時書類がもとのままだったことも忘れていました.結局,妻が学生ビザの
アプライをするまで面接は延期と言われ,その場は閉められてしまいました.

家に帰って妻にビザのアプライについて相談しましたが,妻の準備は整っていず
(だって,空港でやれば良いと窓口で言われていましたから),
それに僕の出発日は迫ってきますし,妻とは別行動にせざるをえない状況でした.
また,妻が行かない以上息子と行くと主張はできません.それらのことを
次の日領事館に伝え,2回目の面接の予約を出発4日前に入れてもらいました.

しかし,面接に行ってみると担当官は風邪でお休み,と言われました.次ぎの日も
行ってみましたが,またお休みです.3日目が予定通りに出発できる最後の日なので,
誰でもいいから話しを聞いて下さい,という懇願レターを提出して粘りました.
別の英国人が対応してくれましたが,休んでいる担当官じゃないと担当できないし,
領事館に詰める,という方法はunfairだからやめてください,と言われました.

次ぎの水曜日に面接があり,案の定僕と息子は落とされました.

日本で落とされるとアピールはできませんが,リトライができます.それで
早速書類を作成し,イギリスからもレターを送ってもらって次の週に研究所の
事務の方と,うちのセンター長の教授に付き添ってもらって,(仰々しく)
僕だけリトライしました.研究所としては僕だけの審査だった場合,
落ちる理由がないと思っていたと思います.私もそうであって欲しいと思いました.
研究所からは文部省からの在研決定通知の写しと英訳,センター長からは
僕に対してのサポートレターを書いていただきました.
あと,通帳も持ってこい,というので,仕方なく出しました.

先週,リトライの面接がありましたが,やっぱり私は落とされてしまいました.
理由は良くわかりません.僕の信頼性がかけている,というような釈然としない
理由です.もちろん2度目のアプライではdivorcedにcheckしましたし,
1回目にmarriedにcheckしてしまったのは事実婚の扱いに無知であったと
懸命に説明しましたが,わかってもらえませんでした.妻が学生ビザを申請すると
言っておいて観光でちょっとよるだけに変更した理由もわかってくれませんでした.
”あんたたちが僕らの計画を狂わせたからでしょ”と言ってやりたかったのですけ 
ど....

あと,面接の間僕が僕の同居人のことを妻と言っていたのが相当気に入らなかった
様子でした.確かに妻とは呼べない女ですが,もう10年くらい妻と言って
いますから,そういう場でも妻と言ってしまいます.向こうにしてみれば,
結婚もしてないのに(訂正はしたものの)結婚していると書類に書いて,アカの
他人を妻と言っている男ですから,変人としか思えないのかもしれません.

というわけで,文部省の時間切れになってしまい,私の留学は御破算に
なってしまいました.今冷静に考えるといくつか慎重さがかけていたと
反省していますが,悪いことをしているわけではありませんので,理不尽な目に
あったという気分だけが残ります.今はすっぽりと空いてしまった1年をなんとか
有意義にすごしたいなあ,と感じています.

そこで,私からもしも同じような立場の人がいたら,以下のことをアドバイス
したいと思います.

1.事実婚夫婦は家族ビザにくっつけられません.領事館に相談すると覚えられて
    しまうので危険です.相談したとしても決して領事館に書類を出しては
    いけません.取り下げたくなっても絶対返してくれません.
  ともかく,領事館には近寄らないことです.
2.審査は空港ですべし.この場合も,別々に行うべきです.
  例えば僕がアカデミックを申請して,同時に彼女が学生ビザを申請したとした
    場合,つるんでいるのがばれると,どうして,あかの他人が同じ日に申請をする
    のか,を問われます.事実婚ですよ,は理由になりません.だから空港では
    あかの他人のふりをし続けることが必要です.
3.女性の方には負担になりますが,子供は女の人のデペンデントにした方が
    無難です.
  うちのように子供の名前が違っていた場合,戸籍など自分がmotherである証明と,
  離婚相手であるだんなさんから一筆旅行同行を許可するレターをもらう.あと,
  何枚かファミリーフォトが必要です.結婚しているのか,と聞かれたら,もち,
  divorcedと答えましょう.

誰かの役にたてば幸いです.(M.O.記)
                                      (おわり)

2000