コンピュータを利用した「地球の内部構造」の学習

○松本直記 , 坪田幸政
○MATSUMOTO naoki , TSUBOTA Yukimasa
慶應義塾高等学校


地学教育,コンピュータ,表計算ソフト,地球の内部構造
I.はじめに
現行の学習指導要領では,生徒の探究活動とコンピュータの利用が奨励されている。また,地学教材は,観察・観測を通して学習する内容が多い反面,時間的に実施が難しいことも多い。コンピュータを使った授業では機械を操作することが目的になりがちだが,コンピュータを使うことで時間を有効利用でき,かつ教育効果を高めることができる例を本校の実践をもとに紹介する。ここで報告する教材は一般的な表計算ソフトを利用しているので,最近のコンピュータの普及を考えるとどこの学校でも実践できると確信している。
2.地球内部構造の生徒実習
地震波を用いて地球内部の考察をする実習は,従来の教科書でも一般的である。この実習では,観測点までの角距離と到達時間が与えられ,地震波速度の変化や地震波の通過する最大の深さを計算し,データシートにまとめ,作図することでリヒター・グーテンベルグ面やレーマン面の存在・各層の状態(固体・液体)を推定することができる。この「地球内部構造の探究」の実習を1年生の必修地学の中でコンピュータと表計算ソフト(Microsoftエクセル)を用いて行った。以前は関数電卓のプログラム機能を用いて手作業で行っていたが,単純作業が多く作図が終了するまでに3時間程度要していた。 授業は,教員がワークシートに従い,教卓コンピュータの画面を液晶プロジェクターで投影しながら生徒と一緒に作業を進めていく方法をとった。生徒の多くは,コンピュータリテラシーを持たない状態ではあったが,一緒に作業を進めることによって,生徒はほぼ戸惑うことなく作業を進めることができた。作表,作図は1時間程度で終了した。コンピュータを初めて使う場合でも手作業で行うより所要時間を短縮できることが確認された。また,考察により時間がかけられるようになったことと,作図上のミスがなくなったので,手作業で行うより的確な考察を行う者が多くなった。更に,コンピュータ経験者で進度の早い生徒は,率先して進度の遅い者の手助けをし,協同学習の状況が観察された。地学の実習にはグラフ化して考察することが多いので,表計算ソフトを用いて作図する技術を身につけることによって他の実習についても時間の有効利用が期待できる。
3. 日本付近の震源分布
3年文系選択地学IIでは,コンピュータを用いて様々な地学教材を扱っている。昨年度は地震をテーマに授業を進めた。その中でエクセルを用いて1984年〜1993年に観測された日本付近のマグニチュード5.0以上の震源データを処理し,日本付近の立体的な震源分布図を作成する実習を行った。データは,1001件で理科年表より入力して作成した。 作業時間は2時間続きの授業1回で終了した。この実習を通して,実用的なデータ処理(作図,検索,並べ替え)を学習することができた。震源分布図からは,和達・ベニオフ面をはじめプレート境界の立体構造をはっきり読みとることができる。生徒はこの図をもとに,日本付近のプレートの構造,地震の発生機構について考察し,プレートテクトニクスに対する理解を深めることができた。 この実習のまとめの演示教材として,同じデータを用いて米国Prentice Hall社のSPSS for Windows生徒版を用いて,震源分布を立体表示させることを試みた。このソフトを用いると三次元の散布図の描画が可能であり,散布図を表示したまま視点を変化させることもできる。立体像を回転させ,様々な視点から観察することで,震源分布の三次元構造や日本付近のプレート構造の理解を促進した。
4. まとめ
1年必修地学と3年選択地学におけるエクセルを用いた実習では,初めて表計算ソフトを使う生徒もほぼ設定された時間内に作業を終わらせることができた。つまり,コンピュータリテラシーのレベルの差による進度差はあまり観察されなかった。 コンピュータのGUIの進化と大型液晶プロジェクターの利用により手順の説明は予想以上に簡単であった。これまでのコンピュータ教育では,操作を教えるのに多大な労力を必要した。しかし,最近のアプリケーションを使うことによって,題材によっては作業時間の短縮に効果があることがわかった。そして,操作が容易になり,コンピュータ嫌いを作らない。結果が比較的簡単に得られることから,生徒はコンピュータの操作より得られた結果を読みとることに重点を置くようになったことが観察された。 なお、この報告の詳細は慶應義塾高等学校地学教室のホームページ(http://www.ifnet.or.jp/~keio)に掲載する。 <参考文献> 文部省(1989):高等学校学習指導要領,大蔵省印刷局

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