コンピュータを利用した「地球の内部構造」の学習

坪田幸政・松本直記

1.はじめに

平成5年より実施されている現行の学習指導要領では,生徒の探究活動とコンピュータの利用が奨励されている.特に探究活動では,観察・実験を通して仮説の設定,推論,分類,測定,数的処理,データの解釈,資料の利用など探究の方法の習得を目標とすることが求められている.

地学教材は,地質・気象・天文など観察・観測を通して学習する内容が多い反面,教室内での実施が困難であったり,長時間を要したり,天候に作用されたりなどで実施が難しいことも多い.ここで取り上げた「地球内部構造の探究」でも,単純なデータ処理に時間がかかるので,作成された図表を利用した学習になってしまい,生徒の演習としては実施されていないのではないだろうか.この単純で時間のかかる作業は,コンピュータの利用によって短時間で終了でき,そして,コンピュータ利用の価値を認識するよい教材となることが期待できる.

プレートテクトニクスの学習では,地震の震源分布から推定できる日本付近のプレートの構造を認識する必要がある.そのためには震源の空間分布を認識する必要があり,平面の教科書や黒板だけでは理解しにくい教材である.そこで,コンピュータを利用して震源の空間分布を提示したり,作業を通して学習する教材を開発した.

地球の内部構造の学習は,地震観測のデータを用いて行われるが,慶應義塾高等学校ではコンピュータによる地震波伝搬のシミュレーションを利用したり,インターネットやCD-ROMのデータを利用しているのでその具体的な方法についても触れる.

本校の地学教育は,1年生対象の必修地学IB(3単位)3年文系生徒対象の選択科目の地学II(2単位)として行っている.本校の地学教育におけるコンピュータの利用は,1984年度に教員の準備・演示用に1台が導入に始まり,1985年度よりコンピュータ教室が設置され,旧学習指導要領では選択理科IIの中でコンピュータ言語「BASIC」を用いた地学教育が行われてきた.1995年度からはコンピュータ教室が改善され,Windowsの導入と共に表計算ソフトなどの汎用アプリケーションが導入され,地学教育におけるコンピュータの利用が加速された.ここで報告する教材は一般的な表計算ソフトを利用しているので,最近のコンピュータの普及を考えるとどこの学校でも実践できると確信している.

2.地球内部構造の生徒実習

現行の学習指導要領では,地球の内部構造は「地球の構成」の中で取り扱い,「地球内部の層構造,物資及び状態を中心に扱い,プレートの概念について触れること」と明示されている.地球の内部構造を知る手段としては,直接的方法と間接的な方法があるが探究活動を重視しながらこれらのことを学習するには,生徒が地震波を使って「地球内部構造の探究」を行うことが最良の道であると考えた.地球内部構造の実習は,三角関数の利用,幾何学の利用など,数学で学習した事柄を実際に利用し,具体的な結論を得ることができる.

地震波を用いて地球内部の考察をする実習は,例えば数研出版「地学TB」に掲載されているように従来の教科書でも一般的である.これらの実習では,観測点までの角距離と到達時間が与えられ,地震波速度の変化や地震波の通過する最大の深さを計算し,データシートにまとめ,作図することでリヒター・グーテンベルグ面やレーマン面の存在を推定することができる.また, 弾性波としてのP波・S波の性質の違いから,各層の状態(固体・流体)を推定することができる.

この実習の問題点は,計算・作図に非常に時間がかかることであり,進度の遅い生徒は考察がおろそかになる傾向があった.また,全体で3時間の実習時間を必要とするので,時間の限られたカリキュラムの中で実施が難しいだろう.特に,計算の作業では三角比の計算が含まれるので手計算では煩雑となり,計算ミスを伴うことも多かった.生徒の探求活動として非常に適した題材なのであるが,多くは図を提示しての学習として済まされているのが現状であろう.昨年度まで本校では関数電卓を用いて,電卓のプログラミング機能の習得も目標の一つとしてこの実習を行ってきたが,今年度よりコンピュータを用いた実習に切り替えた.

この「地球内部構造の探究」の実習を1年生の地学の中でコンピュータを用いて行った.クラスの規模は,4143名である.コンピュータは,11台で,印刷機は5人で1台を共同で利用した.本校の1年生は,全員「生活一般」(2単位)を履修している.生活一般は,4分野のコース(0.5単位)に分けて授業が行われている.この中の1分野は,コンピュータと表計算ソフトを学習している.地球内部の探究の実習は,56月に実施したが,この時点で4分の1のクラスは生活一般のコンピュータを履修していた(グループA).それ以外の生徒(グループB)の大部分は,コンピュータの利用経験は主にワープロやゲームで,Windows環境や表計算ソフトに慣れている者はほとんどいない.

そこで,地球内部の探究におけるコンピュータの利用は,コンピュータリテラシーの習得と時間の有効利用を目的として実施した.使用したソフトはマイクロソフト社のエクセル(Microsoft Excel)である. 今回扱う内容はVer.6.0以上で可能である.本校における地球の構成に関する授業計画と,この教材の授業展開および時間配分を表1に示す.

授業を進めるにあたって以下の点に留意した.

この実習用に用意した配付資料を資料1に示す.授業は,教員が資料1のワークシートに従い,教卓コンピュータの画面を液晶プロジェクターで投影しながら生徒と一緒に作業を進めていく方法をとったことにより,生徒はほぼ戸惑うことなく作業を進めることができた.作表,作図に関して,グループAとグループBの進捗状況の差は殆ど感じることができなかった.最近の表計算ソフトはグラフィカル・ユーザー・インターフェイス(GUI)環境の発達のために非常に使いやすくなったので,以前のようにコンピュータの使用方法の説明に多くの時間をかける必要がないことが確認された.

グループABともにAとBの作業を1時間程度で終了した.コンピュータを初めて使う場合でも手作業で行うより所要時間を短縮できることが確認された.生徒が作成したグラフを図1に示す.

作業で最も時間を要したのは各地点の走時データの入力であったので,データをネットワークやフロッピーディスクを介して配付すれば更に時間短縮が可能である.

生徒たちは,考察により時間がかけられるようになったことと,作図上のミスがなくなったので,手作業で行うより的確な考察を行う者が多くなった.また,コンピュータを自宅に持つ習熟度の高い生徒は,率先して進度の遅い者の手助けをし,協同学習の状況が観察された.グループAについての観察から,作業が終わっても考察をするより,グラフの表題の書体を工夫するなどグラフの外観を良くすることに時間をかけるのが観察された.

多くの生徒にとって,初めてのWindowsと表計算ソフトであったが,わずか2時間続きの授業一回で綺麗なグラフができあがることに驚いていたようである.また,コンピュータが非常に一般的になった現在でもコンピュータを使うことに対する興味は依然高く,生徒は非常に熱心に作業を行っていた.

地学実習にはグラフ化して考察することが多いので,表計算ソフトを用いて作図する技術を身につけることによって他の多くの実習についても時間の有効利用が期待できる.以下,コンピュータと表計算ソフトを生徒実習に活用することで効果の上がった点を挙げる.


3.日本付近の震源分布

3.1 地学IIにおける授業展開

地学IIでは,コンピュータを用いて様々な地学教材を扱っている.コンピュータを使用することで大量のデータを手軽に処理することが可能となる.例えば,プレートの動きの学習分野では震央の分布や震源分布の断面図が用いられているが,このような題材もコンピュータを利用することで教材化が可能となった.しかし,生徒がそれらの図を自ら作成するには手計算や,電卓を使っていたのでは時間的に無理があった.

昨年度は地震をテーマに授業が進められた,その中でエクセルを用いて1984年〜1993年に観測された日本付近のマグニチュード5.0以上の震源データを処理し,日本付近の立体的な震源分布図を作成する実習を行った.

地学IIでは,1985年よりコンピュータ言語BASICを習得し,地学的なデータ処理を生徒実習として行ってきたが,以下のような問題点があった.

昨年度においては,この実習に入る前まで,BASICによるプログラミングとデータ処理の基礎を学習していた.表計算ソフトを使用するのはこの実習が初めてである.この実習で用いたワークシートを資料2に示す.

データは,1001件で理科年表より入力して作成した.データの形式は生徒が既にコンピュータ操作に慣れていることを考慮してテキストファイルとして配付した.エクセルはテキストファイルをはじめ様々な形式のファイルをワークシートに読み込む機能があり,簡単にエクセル用に変換することが可能である.生徒が行う作業と学習するデータ処理テクニックの関係を表2に示す.作業時間は2時間続きの授業1回で終了した.生徒が作成した作品を図2に示す.実際の出力はカラー印刷された.表2でまとめられたように,この実習を通して,実用的なデータ処理(作図,検索,並べ替え)を学習することができた.

震源分布図からは,和達・ベニオフ面をはじめプレート境界の立体構造をはっきり読みとることができる.生徒はこの図をもとに,日本付近のプレートの構造,地震の発生機構について考察し,プレートテクトニクスに対する理解を深めることができた.

BASICを用いた演習では,コンピュータ言語の既習者や自宅にコンピュータがある者の方が有利であるなど,履修者の間に強い不公平感があった.また,そういったコンピュータの得意な生徒は,見映えをよくしたり,操作性を工夫したりと,考察を深めるよりは,プログラミング自体を目的にする傾向があった.しかし,このエクセルを用いた実習では生徒の作業進度はほぼ同じで,不公平感なく実習を進めることができた.プログラミングに肌が合わなくてコンピュータに対し強い抵抗感を感じていた生徒も,自分が作業をして出来上がった作品を手にして初めてコンピュータを使う意義を実感していた.また,コンピュータの得意な生徒は見映えでは大きな差がつかないので,コンピュータを使うことより,考察を深めることに力を注ぐようになった.

コンピュータ教育でアプリケーションソフトを使う場合の利点を挙げると以下のようになるだろう.

震源データから震源分布図を作成する実習は,データを処理し理解しやすい形に構成するプレゼンテーションのよい練習にもなるので,これらの実習は地学教育だけでなく,中学校技術家庭の情報基礎や高等学校家庭科の生活一般の教材としても適していると思われる.

3.2 震源データの立体表示

この実習のまとめの演示教材として,同じデータを用いて米国Prentice Hall社のSPSS for Windows生徒版を用いて,震源分布を立体表示させることを試みた.立体表示の様子を図3に示す.このソフトを用いると三次元の散布図の描画が可能であり,散布図を表示したまま視点を変化させることもできる.

この震源分布の立体図の回転を行うには,はじめにメニューバーの回転ボタンを選択して回転モードに移る必要がある.そして,回転モードの回転ボタンを用いて視点の変化を実行する.回転ボタンは,XYZ軸に対して時計回りと反時計回りの回転ボタンが用意されているが,ここでは,深さ軸(Y軸)を中心に回転させる.立体像を回転させ,様々な視点から観察することで,震源分布の三次元構造や日本付近のプレート構造の理解を容易にした.

また,同じ立体図を同一画面上に複写して,横に並べ,片方の図の視点を少々移動させると,立体視用の震源分布図を作成することができる.この図を用いればコンピュータがなくても立体構造がわかるので,その利用価値は高いと考えられる.同様の操作はDelta Point社の Delta Graph Professional for Windowsや,Poly Software International社のPSI-PlotAT互換機DOS環境)でも可能である.ただし,両者とも立体図を表示した状態での回転はできない.Delta Graphは日本語版が市販されているが,3Dグラフの表示にやや制限があり,操作が少々難しい. PSI-Plotは機能は少ないが実行速度が速く操作性も優れているが,日本語版は市販されていない.PSI-Plotで作成した立体視用の震源分布図を図4に示す.

4.地震教材へのコンピュータの利用

4.1 地震波伝搬のシミュレーション

本校では,コンピュータを使った演示用の地震教材として東京書籍のコンピュータ教材「地球の内部構造を調べる」を使用している.このソフトは,地震現象からモホ面,シャドーゾーン,核などの存在を順序立てて学習するように構成されており,このテーマのまとめ授業で演示しながら説明するのに適している.

また,この教材は地震の観測データから,例えばシャドーゾーンの存在(観測)が問題であり,地球内部の層構造を仮定し(仮説・モデルの設定),シミュレーションの実行(検証),モデルの変更,シミュレーションの再実行,そして結論と授業が展開され,短時間で図5に示した科学の方法論が体験できる.科学の方法を明示的に指導するのは困難なので,このようにシミュレーションを使用した科学の方法の授業は大変効果があると考えられる.

しかし,このソフトは生徒の学習用ということもあり,よくできているが画面表示が遅く,授業が間延びしてしまう傾向があった.また,操作性にやや困難な点があり戸惑うこともあった.ソフトの構成は非常によく考えられているので,Windows版やMacintosh版での再構築を期待したい.

地球内部の地震波伝播のシミュレータとしては,千葉県立船橋豊臣高等学校の鈴木清史氏と東京都立九段高等学校の秋山富雄氏が開発されたものも使用している.このソフトでは,深さによる地震波速度を自由に設定できるので,「どのような内部構造を設定すれば実測の走時曲線に一致するか」を,考えさせることができる.実行速度も軽快で,地球内部を地震波が進む様子は生徒に強いインパクトを与えるようである.

ここで紹介したシミュレーションソフトは,どちらもNEC-PC9801シリーズのMS-DOS上で実行できる.最近のコンピュータの普及と発展を考えると,旧機種のNEC-PC9801は比較的容易に入手でき,演示教材として利用できるであろう.

4.2 インターネット上の地震データ

近年,インターネットの急速な発達・普及に伴い,地震に関するデータをオンラインで入手することができるようになってきた.従来,これらのデータの利用は一部の研究者に限られていたが,インターネットの普及に伴い,教育現場で利用することが可能になった.また,インターネット上のデータは,速報性があり,サイトによっては日々自動更新しているものもある.従って,地震が発生して,翌日の授業にそのデータを利用することも可能である.

国内の地震データを提供しているインターネット・サイトとして科学技術庁防災科学技術研究所のホームページがある.このホームページでは,研究所所有の震源データを公開しており,それらのデータを入手・編集すれば,ここで報告した震源分布の作成が,より新しいデータで実施可能となる.東京大学地震研究所のホームページには,日本各地で観測された地震データや, 世界中の地震データネットワーク(IRIS)からのデータの入手方法が説明されている.また,地震に関係する国内外の地震関係のサイトの一覧がありリンクが張られている.地震情報新聞社のホームページには,日本における最近の地震活動の図と文章による解説がある.また,慶應義塾高等学校地学教室のホームページには,今回報告した震源データを掲載している.ここで紹介するホームページのアドレスは表3にまとめて示してある.

固体地球に関する世界データセンター(World Data Center B for Solid Earth Physics)のホームページからは,世界各地の地震観測データを請求することができ,データを電子メールで受け取ることができる.そして,米国Purdue大の中にあるアメリカ地震学会(The Seismological Society of America)のホームページでは,米国内における地震関係の教育用資料を紹介している.また,アメリカの緊急対策情報センター(The EPI Center)のホームページでは,アメリカ国内の地震関係のサイトへリンクを張っている.

地震関係のインターネット上の情報は観測データだけではない.神戸市のホームページには,兵庫県南部地震の際の神戸市の震災の被害状況が収録されている.海外の地震に関しては,サンフランシスコ地震の記録写真がサンフランシスコ市立博物館(The Museum of the City of San Francisco)のホームページにまとめられている.これらの資料は,サンアンドレアス断層と関係づけて教材化ができるであろう.

そして,インターネット上には地震に関する情報だけでなく,神戸市立赤塚山高等学校(英文)や神戸市立葺合高等学校のホームページのように,被災した高校生たちが綴った文章を見つけることもできる.このホームページの文章を読んだ本校生徒は,同世代の被災体験を読み,少なからずショックを受けていた.これらの体験を通して,日本では,どこに住んでいようと地震災害を想定しなくてはならないと再認識させられた.そして,そのショックは地震学習に対するよい動機付けになった.

インターネットを授業で利用することで,生徒は研究で使用されている生のデータを能動的に手に入れ,解析を行うことができる.従来のような実習用に加工され単純化されたデータを用いる場合に比較して,生徒は自然科学に対する興味をより膨らませることができると考えられる.また,今後の発展が期待されるネットワーク社会を考慮すると,いろいろな場面でネットワークを利用し,問題を解決する練習の場を生徒に与える必要があると考える.

4.3 CD-ROMの利用

地震に関するデータは,市販されているCD-ROM利用することもできる.理科年表のCD-ROMは,理科年表に記載されている地震に関する図表が収録されている.このCD-ROMの地震の位置の緯度・経度のデータは,度分秒の60進法の文字情報として記録されているので,コンピュータを使って震央の分布を作成するためにはデータの修正が要求される.また,原則として理科年表に記載されているデータだけなので,地震波の観測例などの情報は含まれていない.

メリーランド大学を中心に開発された地球・宇宙科学のCD-ROMにはアメリカ航空宇宙局(NASA),アメリカ海洋気象局(NOAA),アメリカ地質調査所(USGS)などの豊富なデータが収録されている.また,このCD-ROMには教員用の指導書も付属しているので教育現場での利用が容易である.このCD-ROMの地震のセクションには19891017日にサンフランシスコで起こったマグニチュード7.1の地震の詳細なデータが含まれている.また,198310月に起こった13回の地震に関する情報が収録されている.この中には旧ソビエト連邦で行われた地下核実験による地震のデータも含まれている.この地下核実験による地震とサンフランシスコの地震を比較することにより,地下核実験の監視が可能であることも学習できる.

このCD-ROMにはサンフランシスコ大地震の際に各地で記録された波形も収録されている.この波形を利用することで,観測地点における初動が圧縮であったか,膨張であったかが判断でき,初動の向きが推定できる.そして,各地の初動の向きを調べることで,断層にかかった応力場について考察を進めることができる.この実習に関しては付属の指導書に詳しく説明されている.プレートテクトニクスや地震の学習をより発展させるためには,現在日本で普及しているような静的なデータ(震源の位置)の提示・利用だけでなく動的なデータ(地震の波形データ)の利用も考慮していくべきであろう.このような地震の観測データはインターネット上には提供されていることが多いので今後の教材化が期待される.

兵庫県南部地震の報告として大成建設が作成し,教育関係者に無料で配布された「兵庫県南部地震被災地からのレポート」には神戸海洋気象台の観測データなども収録されており,利用の方法を開発していくことが期待される.

5.まとめ

1年必修地学と3年選択地学におけるエクセルを用いた実習では,初めて表計算ソフトを使う生徒もほぼ設定された時間内に作業を終わらせることができた.つまり,コンピュータリテラシーのレベルの差による進度差はあまり観察されなかった.

コンピュータの導入によって,作業時間が短縮され,考察に充分な時間がかけられるようになった.

コンピュータのGUIの進化と大型液晶プロジェクターの利用により手順の説明は予想以上に簡単であった.DOS環境におけるアプリケーションを用いた実習と比較して,操作法に関する生徒からの質問は激減した.

これまでのコンピュータ教育では,従来のDOS環境ではコンピュータの操作を教えるのに多大な労力を必要し,コンピュータを使うことが目的になりがちであった.しかし,コンピュータ環境の進歩により,操作を教えるところから始めても,アプリケーションを使うことによって,題材によっては作業時間の短縮に効果のあることがわかった.このことによって,今までは時間的な制約で教材として取り上げられなかったテーマについても教材化の可能性がでてきた.

さらに,アプリケーションを使うことによって操作が容易になり,コンピュータ嫌いを作らない.そして,結果が比較的簡単に得られることから,生徒はコンピュータの操作より得られた結果を読みとることに重点を置くようになったことが観察された.

「地球の内部構造」の学習へコンピュータの利用は,生徒の活動だけでなく演示装置や教材準備としての利用法も示された.その中で,シミュレーションを利用することで,科学の方法を明示的に指導できることを示した.また,インターネット上に教育に利用できる最新の情報が存在することを示し,授業への利用を例示した.そして,教育目的で編集されたCD-ROMを利用することで,地震の学習がより深く展開できるだろう.

近年のコンピュータソフト発展に伴いコンピュータは,人の思考を助ける道具として利用できるようになったと言える.そして,コンピュータと表計算ソフトの利用は教育に様々なインパクトを与える.地学教育へのコンピュータの導入は,演繹的な作業が多い理科教育に,帰納的な作業を導入することを容易にすると考える.


参考文献

Joint Education Initiative Project Team1993): "Earth And Space Science", Univ. of Maryland

国立天文台編(1996):理科年表 CDROM,丸善株式会社

Marsha Barber and Kelly S. Kissamis1990):"Scott, Foresman Earth Science Overhead Transparency Masters", Scott, Foresman and Company

文部省(1989):高等学校学習指導要領,大蔵省印刷局

大成建設編(1995):兵庫県南部地震被災地からのレポート,大成建設


坪田幸政・松本直記:コンピュータを利用した「地球の内部構造」の学習

【キーワード】地学教育,コンピュータ,表計算ソフト,地球の内部構造,インターネット, CD-ROM

【要約】地球の内部構造に関する授業を表計算ソフトを用いて実施した.その結果,作業進度は生徒のコンピュータリテラシーに依存しないことが観察された.地学教育へのコンピュータの導入は,大量データの処理を可能にし,演繹的な作業が多い理科教育に,帰納的な作業を可能とする.また,インターネットやCD-ROMなどの地震データの様々な利用法を示し,震源分布の可視化やプレート運動の教材化の可能性を示した.

Yukimasa TSUBOTA and Naoki MATSUMOTO: Investigating the Earth's Interior Using A Computer


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