hellog~英語史ブログ

#5827. 英語史におけるギリシア借用語の位置づけ --- 拙論をマインドマップ化[greek][lexicology][neologism][scientific_name][scientific_english][word_formation][emode][contrastive_language_history][inkhorn_term][combining_form][compound][mindmap]

2025-04-10


日本のローマ字社 (編) 『ことばと文字18号:地球時代の日本語と文字を考える』 くろしお出版,2025年4月25日.



 4月7日の記事「#5824. 近刊『ことばと文字』18号の特集「語彙と文字の近代化 --- 対照言語史の視点から」」 ([2025-04-07-1]) で紹介した特集へ,私も一編の論考を寄稿しています.テーマは「英語語彙の近代化 --- 英語史におけるギリシア借用語」です.以下に内容をマインドマップ化したものを示します(画像としてはこちらをどうぞ).

英語語彙は様々な言語からの影響を受けて形成
ギリシア語からの借用は独特の位置づけ
間接的影響:ラテン語を経由したものが多い
直接的影響:15世紀以降に本格化
ギリシア語の影響は直接的・間接的に分類
英語の語彙の近代化において重要な役割
1. はじめに
本格的な出会いは15世紀に遡る
15世紀以前は間接的借用が主
ルネサンスの影響で古典への関心が高まる
1453年コンスタンティノープル陥落後,ギリシア語学者が西欧に亡命
学術的用語が多い(哲学,医学,文法など)
限られた知識層での使用から徐々に一般語彙へ
多くはラテン語化された形で英語に入る
初期の借用語の特徴
2. 英語のギリシア語との出会い
16世紀〜18世紀:英語語彙が最も速く成長した時期
学術用語の増加(hypothesis,analysis,synthesis,criterion)
過度に学術的で難解な語彙(多くは現代に残っていない)
一方で現代にも残る重要語彙も多数導入
「インク壺語」(inkhorn terms)の出現
接頭辞・接尾辞の導入(anti-,hyper-,proto-,-ism,-ize)
綴字論争:ギリシア語の2重字 <oe> と <ae> の扱い
発音論争:「正しい」発音についての議論
基礎語彙:ゲルマン系
中間層:フランス借用語
高度な概念:ラテン語・ギリシア語借用語
語彙のピラミッド構造の形成
18世紀オーガスタン時代の語彙的保守性
特徴とインパクト
3. 初期近代英語期のギリシア語からの借用語
19世紀以降,科学技術の発展に伴い影響が顕著に
学問分野を表す -ic/-ics/-logy 接尾辞の普及
tele-(遠い)+ -phone(音)→ telephone
micro-(小さい)+ -scope(見る)→ microscope
連結形(combining form)の活用増加
otorhinolaryngologist(耳鼻咽喉科医)
並列複合語(dvandva)の形成拡大
動詞を作る -ize/-ise 接尾辞の拡大
-ism 接尾辞の発達(思想や主義を表す)
科学技術用語の爆発的増加
国際的な専門用語の確立
新古典主義的複合語への批判と擁護
特徴
生産性と柔軟性が特徴
4. 学術用語と新古典主義複合語
語形成の柔軟さ
国際性:多くの西洋言語に共通
中立性:特定の近代言語に偏らない
伝統:古典語としての権威
精密性:複雑な概念を正確に表現
体系性:関連概念を体系的に表現
科学用語として広く採用された理由
現代の一般語彙にも浸透(anti-,hyper-,mega-,-phobia,-mania)
5. 近現代の共通財産として
ギリシア語の影響は語彙だけでなく語形成にも及ぶ
科学技術の発展と国際化に重要な役割
Dionysius Thrax による品詞分類
古代ギリシアの方言概念
古代ギリシアの言語学的伝統も現代言語学に影響
今後も新しい概念や技術の出現に伴い造語は続く
英語語彙におけるギリシア語の影響は言語史・文化史的に重要なテーマ
おわりに
英語語彙の近代化 --- 英語史におけるギリシア借用語


 英語史におけるギリシア語の位置づけは,ラテン語,フランス語,古ノルド語などに比べるとマイナー感のある話題かもしれませんが,掘り下げてみるとおもしろいです.ぜひご注目ください.

 ・ 堀田 隆一「英語語彙の近代化 --- 英語史におけるギリシア借用語」 特集「語彙と文字の近代化 --- 対照言語史の視点から」(田中 牧郎・高田 博行・堀田 隆一(編)) 『ことばと文字18号:地球時代の日本語と文字を考える』(日本のローマ字社(編)) くろしお出版,2024年4月25日.62--73頁.

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