年中行事としては節分の豆まきが終わり,次はバレンタイン・デー ( St Valentine's Day ) という時節になった.英米を中心に恋人たちがカードや贈り物を交わす日として知られているが,日本では女性から男性へチョコレートを贈って愛をうち明けるということが習慣化している.日本のこの習慣は,1958年にメリーのチョコレートが仕掛けた商売に遡るという.
先日,(残念ながらバレンタイン・デーとは無関係に!)いただいたメリーのチョコレート・コレクションの箱に,"Mary's Delectable Products Since 1950" という文言を見つけた.delectable の意味は,英英辞書の定義によると "(of food and drink) extremely pleasant to taste, smell or look at" とある.語源的には「楽しみ,喜び」を意味する delight と関連の深い単語だが,よく調べてみると,このペアが英語に定着するまでの過程が興味深い.
delectable は,ラテン語 dēlectāre "to delight" から派生した形容詞 dēlectābilis に遡り,フランス語 délectable を経て,1396年までに英語に入った.一方,フランス語で語中の子音の脱落していた動詞形 delitier の派生形容詞である delitable も先に英語に借用されていたが,delectable と競合して1500年以降に廃れた.結果としてみれば,現代英語の delectable は,本来のラテン語の形態をほぼ忠実に伝えているといえる.
では,名詞(あるいは動詞)の delight はどうだろうか.上にも述べたように,ラテン語 dēlectāre "to delight" は,フランス語に入って delitier と形態が崩れた.この崩れた形態が1200年までに英語にも入り,中英語期を通じて delite という綴字が行われた.ところが,16世紀初頭に,おそらく light などからの類推で,<gh> の挿入された誤形 delight が生じ,やがて一般化してしまったのである.結果としてみれば,現代英語の delight は,本来のラテン語の形態から崩れたフランス語形が中英語期に取り込まれ,近代英語期に類推によりきわめて英語的な <gh> が黙字 ( silent letter ) として付加された,なれの果ての姿ということになる.二度崩れたとでもいおうか.
品詞こそ異なるが delectable と delight とでは,前者のほうにより洗練された響きを感じるが,いかがだろうか.ブランドのチョコレートとしては,<c> を保った「崩れていない」 delectable がふさわしいと感じられる・・・.
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