アメリカの大学制度豆知識

「英語セミナー」でアメリカの大学運営を扱ったのですが、そのときの授業内ディスカッションで質問が多かった項目についてメーリングリストに書きました。以下はそれを編集したものです。


TA制度

「教育助手」という意味です
TAというのは'Teaching Assistant'の略です。日本では院生が時給をもらってクラス内外で教員の助手をするという「ちょいとわりのいいアルバイト」的位置づけのように思いますが(私も日本でやったことがあります)、本来のアメリカでのTA制度というのは有望な大学院生に(1)「授業料免除」(2)「俸給(というか手当みたいなもん。ちょっと給料とは呼びにくい額)」(3)「教育者になるための訓練の場」を提供することが目的です。

仕事の内容
業務の内容はディスカッションセクションや演習クラスの指導、学生さんの名簿・成績の管理、毎週の学生さんの学習指導、実験やLL学習セッションの監督、などがあげられます。私もアメリカでTAを使っていた時期がありますが、やっぱり有能なTAは授業や教材のアイディアを出してくれたり、学生さんの様子を報告してくれたりして何かと助かりました。しかし立場はあくまでも「教育助手」ですので、シラバス・授業計画・学生の評価は専任教員の責任となります。

職歴にはなりません
TA経験しかないのに「アメリカの大学で教えていたことがある」と吹聴したり、「職務経験」として履歴書に載せる人がたまにいますが、アメリカの事情を知る人には通用しません。TAは教授能力を買われて与えられる仕事ではなく、奨学金と同じく、専門分野で有望な研究者になりそうな院生への「経済的援助」として与えられるもので、「職歴」として扱われるようなものではありません。「教育経験が全然ない」というよりはマシかなあという程度の扱いです。


シラバス


日本の大学では「講義要綱」がちょっと詳しくなったような程度のものを「シラバス」と呼びたがるようですが、これもアメリカのオリジナルとはちょっと違っています。アメリカでのシラバスというのは基本的に「契約書」の意味合いを持っています。教員はこういう内容と評価基準でやりますんで、学生さんが教員の提示するルールを守って勉強する限りにおいて、約束どおりの指導をきちんと行います、というようなスタンスでしょうか。アメリカにおけるシラバスは教員・学生双方にとって重要な書類ですから、授業が始まってから学生さんの人数や授業のペースを鑑みて、シラバスを学期途中で改訂することもままあります。



授業評価


評価用紙
アメリカの大学ではほぼすべてのクラスで、大学共通の用紙を使って行います。専任教員・非常勤教員・TAと、授業を個別に担当する講師はすべて授業評価を受けます。所定用紙の最後のページに「教員から追加の質問があるとき使うこと」と書かれたスペースがついていることもあります。これは担当教員が特にききたいことを、当日黒板に書く時に利用します。

評価実施の段取り
通常、評価シートの記入は期末試験の前の週に、授業の最後の15分を使って行われることが多いようです。教員は大学から人数分配布された評価シートをクラスに持参して、授業の終わりに学生に配布した後、シートを集めて提出する学生を決めてから、教室から出て行くことがルールとして決まっています。学生さんに変なプレッシャーをかけないようにするためらしいです。

シートを集める役の学生さんは、全員分のシートを封筒に入れてテープで封をした後、封印の上に自分のサインをして、それを大学の教務課などに提出します。つまり、教員が評価シートにさわれるのは教室で配布を行うところまでということです。教員が成績を大学に提出した後に、学生が記入したシートの現物と担当クラスごとの集計結果が送られてきます。(現物を後日回収するという大学もありました。)

結果の利用法
この結果がどう使われるかということですが、以前私が仕事で行ったアメリカでの聞き取り調査によりますと、大学によって事情は少しずつ違うようですが、少なくとも学部長レベルなら結果は送られていると思いますし、小さい大学ならさらにその上のDean(専攻長みたいな感じでしょうか。日本には該当する役職がないと言われています)が個々の教員の授業評価を読むこともあります。そこであまりにも問題がある結果であるとか、数年間にわたって評価が低いという場合には、学部長と教員が面談するということもあるそうです。

評価結果の公開
このあたりも日本では勘違いされているような印象がありますが、大学が行う授業評価の結果を公開するということはアメリカでは普通はありません。授業評価の結果は教員のプライベートな情報と考えられています(もちろん本人が自発的に結果を公開するのは自由です)。その大学の学生と教員の雰囲気、担当教員の教育ポリシー、そして実際の授業運営について何の知識もない人が、説明なしで評価の数字だけを見てもあまり有意義ではないということだと思います。授業評価の真の目的は、教員の授業運営の改善にあります。教育経験の浅い人や大学院生のTAのために、大学が集計結果の解釈の仕方や、特定の項目を改善するためのヒントを結果に同封している学校もあります。

就職活動での利用
授業評価の結果がなかなかよい場合には、大学関係の就職活動の応募書類に含めることもよく行われます。もちろんそれだけで採用するとかしないとかの話にはなりませんが、どこの大学でも質問項目は具体的で、しかもいろいろな側面について質問する内容になっていますので、選考する方としては「アメリカの大学教員として通用する授業ができる人間かどうか」を判断する目安にはなります。