大学教員のしごとガイド

なるべく特定の分野に限定しないように書きましたが、大学や所属、研究分野によって実際の様子はかなり違ってきます。



どんな仕事をしているの?

大学教員というのは、「教育」「研究」「学務(大学運営)」という、適性が異なる3つの仕事が合体した職業というのが難しく、またおもしろいところです。最近はこのうちのどれかの業務を重点的に担当するために採用されるパターンもありますが、そうでない教員の場合は、どれも同程度に重要な仕事です。

「教育」

まず担当クラスのレベルに合わせて授業計画をたてます。前年度の冬に講義概要(または「シラバス」)原稿を執筆するにあたり、教科書や講義期間全体のプラン、評価基準を考えます。教科書の注文を入れ、入荷状況をチェックします。

 学期が始まってからは毎回の授業運営、宿題やテストの採点と出欠・成績管理、学期中の個別指導、授業支援用HPやメーリングリストの管理、期末発表やレポート、試験などの採点と評点の提出があります。ゼミを担当している教員なら、長期間にわたるグループ研究・個別研究の指導、論文指導があります。学習に関する相談、推薦状の作成や進路相談、留学相談への対応が入ることもあります。

 教授法や授業運営スキル研修など、授業を改善するためのFD(Faculty Development)活動もここに入ります。


求められる適性

学生は発展途上の段階にあるため、才能がある部分や実際に伸びている部分(本人が意識しているとは限らない)や学習のペースにも大幅な個人差があります。それらを鑑みつつ、学生にわかる言葉で説明する言語スキルと対人スキルが今後ますます必要になってくると思います。

 昨今の大学の大衆化を鑑みると、授業での情報提示の仕方や評価の基準、学生のレベルに合わせた副教材・授業内タスクのデザインや使い方など、教材や教授法の知識もあった方がよいと思います。



「研究」

それぞれの研究分野で細かいところはかなり変わってきますが、おおまかに挙げれば文献調査、実験、フィールドワーク(とその準備のための交渉)、国内外の学会参加や発表、論文の作成と学術雑誌への投稿、専門書の執筆などが含まれます。これらの作業のそれぞれに「思考実験」や「論考」など、精神的にエネルギーを使い、かつ集中力を要する「仕事」が要求されます。

 研究を実行するための研究費の申請と管理(延々と続く書類作成)、その研究費を使って雇用する助手やアルバイトの管理など、国内外の共同研究者との打ち合わせなどの研究事務にも時間をとられます。

 学会や学術誌の論文審査(査読)、依頼原稿の執筆、学会の役員の仕事、シンポジウムや講演の運営(依頼講演含む)、学外の政府・市町村などの委員会、専門分野の集中講義の依頼などの仕事もあります。 


求められる適性

分野によって多少違うところもあるでしょうが、分野の高度な専門知識と研究スキル(問題発見と論の立て方、調査の仕方、データの評価センスなど)、論理スキル、独創性、情報管理能力は必要かと思います。

 最近はデータの扱いや研究費の不正使用が大変に問題になっているので「倫理意識」「社会常識」「危機管理能力」もこれから求められる適性にあげておくべきかと思います。



「学務」(組織運営)

自分が所属する組織(大学、キャンパス、学部、セクション等)の運営に関する仕事です。

 学部内の分野別セクションのカリキュラム計画(どんなクラスをいくつ出すのか、レベルやクラス間の連携も考える必要があります)、学生向けガイダンスや説明会・試験の企画運営、非常勤および専任教員人事(求人と審査)、共通科目の計画と運営、学内の学術系イベントの企画運営、学内研究紀要(論文集みたいなもの)の編集、いろいろな学内委員会などの組織運営(常時設置されているものと、プロジェクトごとに時限つきで設定されるものがあります)や、それらの組織の年間予算の管理と執行などがあります。

 ここであげた業務の多くには、セクション間や個人間の交渉、往々にして長時間にわたる会議、そして書類作成がついてまわります。


求められる適性


一言でいえば事務系ビジネスパーソンとしてのスキルが要求されます。具体的には企画力、事務書類作成能力、交渉能力、会議運営(リーダーまたは参加者としての)スキルなどが挙げられます。エクセルやHP作成・管理、e-learning教材作成知識などのPCスキルもあると重宝がられます。

 個人で対応できるものは少なく、グループで協力して行う仕事が多いため、協調性など対人スキルがあると、関係者全員が楽になります。




そんなにたくさん1人でできるの?

大学教員がここにあげた3つの業務を「常に均等に」やっているわけではありません。仕事の内容や教員自身のさまざまな都合などで、同じ教員であっても3つの仕事のウエートは時期によって大きく変動します。

この3つの全部に優れた人というのはなかなかいないと思います。大学院で訓練されるのはたいてい「研究」だけですから、「教育」「学務」については、初めて大学に就職したときから1人で現場でおぼえるしかないというのが残念な現実です。

 ノウハウを習ったり評価されるということがないので、個人的な経験の有無や面倒を見てくれる先輩の有無、自己学習能力のレベル、本人のやる気(意識の高さ)によってかなりの差がついてしまいます。

 また、「研究」「教育」は個人の能力が比較的現れやすい職務であるのに対して、「学務」はチームワークが重視される業務内容となることも大きな違いです。



どうやったらなれるの?

定番のコースの場合は

学歴(修士号以上、博士号などその分野での最高学位が望ましい)
大学での教育歴(非常勤教員などでスタートする人が多い)
業績(出版論文。掲載媒体のレベルによって点数化される場合もあり)

の3点セットが必要です。あまり出入りの激しい業界ではないこともあり、一般論として就職は相当厳しいです。

分野や求人内容にもよりますが、研究活動だけでなく、教育活動に対する姿勢や見識も考慮して採用する大学が増えているようです(専門分野の人がびっくりするようなレベルの研究業績をあげている人はまた違うと思いますが、そういうケースはここでは考えていません)。

最近は日本の大学でも終身雇用とは限らず、期限付(有期)のポジションも増えています。大学のポジションを含む研究者向け求人情報は研究者人材データベース(JREC-IN)を参考にしてください。