相談者の心の状態と身体の健康(例)
Aさんの場合
いつも事件のことが頭から離れず、何をしていても、自然に頭にそのことが浮か
んできてしまう。いくら努力しても、ぼーっとしたり、何かに夢中になることが
できないので、心が休まることがなく、いつも心の緊張を強いられている。論文
原稿の執筆や研究も上の空の状態で、集中しようとしても集中できない。
注1:これは心に傷をうけた時の典型的な症状で、かなり辛い状態です。一刻も
早く事件の根本的な解決が望まれます.
注2:こういう状態の人に、『温泉にでも行って気分転換をしたら、そんな
に気にならなくなるよ』などと言うのは無責任です。まるで、骨折している人に、
バンドエイドを貼って、休んでいれば直るよと言うようなものです。このような
セリフを相談員が言ったら、無責任そのものです。相談者は気分転換したくても
不可能だからこそ、苦しんでいるのですからね。できるだけ早く、事件がセク
シュアル・ハラスメントにあたる、との決定をくだし、解決にむけて動いて
(相手の処分は厳しく!)下さい。
なお、骨折にはバンドエイドではなく、病院に行くのが常識のように、
大きな心の傷には、適切なフェミニスト・カウンセリングか、精神神経科や
心療内科の助けを得ることが必要な場合もあります。
Bさんの場合
加害者と職場が同じなので、何かの折に、偶然廊下ですれ違ったり、横断舗道で
偶然ちらっとでも姿を見かけたりするだけで、身体中から血がひき、硬直する。
会議で同じ部屋にいる時には、非常に大きな苦痛を感じる。もしこの状態で、
加害者が複数だと、悲劇です。会議でどの席にすわるかは、恐怖の種です。また、
座っていても、視野の中心にはもちろん、視野の隅にすら、ちらっとでも加害者
の姿を入れない為には、座っている間中、前の方だけしか顔を向けられない、と
いうはめになります。そのため、会議の数日前から気が重くなります。
Cさんの場合
自分が体験した事件とは全く関係ないのに、単にセクシュアル・ハラスメントに
ついて書いてある本や映画、小説、電子メイルなどを読むと、どきどきして身体が
震え、その夜から眠れなくなる。
Dさんの場合
文章を紙に書く時、他のことなら通常の筆跡なのに、事件に関することだけは、
いつも手がふるえ、筆跡が乱れる。事件について書いたり話したりする時には、
いつもどきどきして、ふるえ、心の負担を感じる。平常心でいようと努力しても
できない。
Eさんの場合
夜眠れない。眠りについたころに背中が痛くなって起きてしまう。起き上がり、
20分〜1時間くらい座っていると収まってくるので、また眠り、また痛みで
起きる。ひどい時には20分おきに起きてしまい、ほとんど寝ない期間が続く
(体力がてきめんに落ち、昼間もつらい)。症状が良い時期には、1時間半〜3時間
くらい続けて眠れる。寝ている時には歯をくいしばっているようだ。夜が来るのが
恐い。
この状態が1年以上にわたり、毎晩必ず繰り返されている。
原因はセクシュアル・ハラスメントが原因でおきた、人間
関係の悪化による心身症である。薬を服用しているが、良くならない。
セクシュアル・ハラスメントの主なできごとが起きた時期がやってくると、毎年
、症状が非常に悪化する。
Fさんの場合
異常な疲労感があり、立っていられない。講義をやっとこなすが、それ以外は、
家で寝ている。特に悪いところはないのに、この状態が1ヵ月以上続く。
Gさんの場合
昼間、身体のあちこちが痛む。特にその部分に疾患があるわけではない。
事件について、誰かにほんの少し何か言われただけで症状が悪化する。
Hさんの場合
咳が続く。何かに集中している時は出ず、ほっとした時や、飽きた時、
ストレスを感じる時にのみ出る。
Iさんの場合
チック症状。自分では気づかなかったが、偶然自分が映っているビデオを
見たら、片目を時々チックしていた。
注:チックをする子供は、感受性が豊かで創造的な仕事をするようになることが
多い、と、むかし読んだ本にありました。
Jさんの場合
朝起きると背中が痛い。朝食をとり、大学につくまで痛みが消えない。うちひし
がれた気分にならないよう、空を見上げたり、植物などをみながら通勤。ひどい
時には、午前中ずっと痛みがつづく。昼すぎになると楽になる。薬を飲んでいるが
よくならない。から元気を出すために、痛い時にうたう歌
をハミングしながら通勤する
Kさんの場合
たとえば街を歩いている時や本屋にいるときなど、無関係の場所でも、ちょっとでも
加害者に似た体型の人影や、似たような色のコートが目にはいると、びくっとする。
そっと確かめずにはいられない。5年間この状態が続いている。
Lさんの場合
自分の研究室から出るのが恐い。廊下やメイルボックスやお茶のみ部屋などへ
うっかり行くと、加害者に出くわす恐れがあるので、自分の研究室から出る時
には、覚悟をきめて、息を止めて、そっとドアを開ける。
Mさんの場合
事件直後から1年間は、文字通り毎日泣いてばかりいた。大学の研究室でも
コンピュータの前で涙をぼろぼろこぼしていた。CRTに出る字を大きくして
あるため、涙が出ても文字は読めるだろうと思ったが、屈折率が変わるので、
字がゆがんで読めない。近視のため、顔をスクリーンに近づけると、涙が
キーボードに落ちそうで(電解質だから危険!)、その緊張感で1日もたせて
いるようなものだった。
Nさんの場合
事件のあと、フェミニズムも研究テーマのひとつという男性に相談したら、
そんなのセクシュアル・ハラスメントじゃない、あなたの態度はあまりに
大人げない!軽蔑する!と語気を荒げていわれ、深く傷つく(のちに相談機関から
該当する件はセクシュアル・ハラスメントと認定された)。
また、別の女性学を標榜する研究者(女性)に相談したら、「何で裁判しないの、
私なら裁判するわ」と言われ、自分は裁判もできないダメな人間なのだと、
落ち込んでしまう。後になって、この人は、「これは裁判しても勝てるような
ものじゃない」と発言。
あー、こんなことを書くと、せっかく読みにきてくださっている全国の
女性学の専門家が怒るでしょうか。Thanks for visiting this Web page!
初期に相談された人が、適切な対応ができることの必要性を訴えたいのです。
Oさんの場合
事件そのものより、事件後の二次的災害により、心身症がひどくなり、PTSDと診断
された。早期の回復は望めないようだ。なおらない覚悟をきめ、障害と共棲するように
生活をたてなおそうと決心。いつ直るのだろうかと悩むより、限られた範囲でも、今
できることをして、充実した毎日を送りたい。睡眠障害がひどいので、疲労回復と
体力・健康維持のため、研究室に寝椅子をおき、毎日昼寝する。さらに部屋をグリーン
(最近の造花は本物そっくり)で満たし、別荘気分で昼寝できるようにし、決して
『闘病生活』という単語を思い出さないようにする。使える時間が少ないので、仕事の
ペースを落す。
Pさんの場合
いつも死にたいと思っている。出張で飛行機に乗ると、このまま飛行機が
落ちればいいのに、とつい願ってしまう。以前は、生きるのが楽しいと
思っていた時期があったことが信じられない。(最初の事件から3年経過したが、
同僚から孤立し、職場環境はまったく改善されていない。)
Qさんの場合
毎日同じ夢をみる。教授がずらっといる中、加害者の教授にむかって、
『あんたのために障害になったんだ、謝れ!あやまれー!!』と大声で、
謝罪を要求しているのに、声がまったく出ない。カスカスの声しか出ないのを
マイクを使ってどなる時もある。同じような夢を毎夜見る。
最初の事件後、満5年経過(二次的被害はまだ続いている)。
Rさんの場合
定年になる人が、挨拶しているのをみると、ひたすら、うらやましい。私も
早くこの職場から去りたいと思う。でも去った後で何かをしたいという事が
あるわけではない。将来についてのことが全く考えられない。
Sさんの場合
死ぬ時は学部長室の前で自殺しようと思っている。おまえのせいで、こんな
つらい健康状態になったんだー、健康を返せー、と大声で叫んで死にたい。
注:その前に1年半以上も何もしなかった学部長の管理責任を、明確に
社会に問うこと。間違っても黙って死なないように。
感受性が豊かで、創造力のある人は、人生の中で傷ついてしまう場面が、
人より多いかもしれません。でも決して傷つく人が悪いのではありません。
このページにある例は、本人から掲載許可をいただいています。心に傷をうけた
人の典型的な症状で、心が回復するためにたどるプロセスです。専門的なことは、
文献リストにある本を見て下さい。
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