筆者は被害者カウンセリングを専門におこなう精神科医です。この本はカウン
セリングを行う人と被害にあった人の両方を読者として想定しています。PTSD
(心的外傷後ストレス障害)の詳しい定義(症状)はこの本をみて下さい。
巻末の案内によると、東京医科歯科大学では、東京と大阪で犯罪被害者相談室
を開いており、犯罪にあった人や、その家族のこころの傷について、カウンセリング
をしています(電話予約が必要、無料)。
この本は、性暴力をうけた人、周囲の人、パートナーのための本です。性暴力を
受けた時に、すぐに必要なことや、法律にうったえる時のための知識、
弁護士相談と裁判の経過と費用、心の回復のために本人も周りの人も知っておく
べきことなど、(裁判するかしないかは別として)ひととおりは知っておくと
よいことがていねいに書いてある良い本です。
民間の相談組織リスト(電話番号)と、都道府県警本部の性犯罪に関する相談窓口
のリスト(電話番号)が巻末あります。
この本は、組織の管理者にとって必要な、セクハラについての心理的な面と
法律的な面での知識を得ることをねらいとしていますが、一般的な読者にも
おすすめです。セクハラの定義や判例、管理者が絶対にしてはいけない対応や、
セクハラをしてしまう人の心理、セクハラを受けた側の心理など、ひととおり
知っておくべき事柄が網羅されていて、とても参考になります。
セクシュアル・ハラスメントにたいして個々の職員はどのように注意すべき
であり、各省庁の長はどのように防止策と問題への対応をしたらよいかという
ポイントをまとめたのがこの本です。セクシュアル・ハラスメントになる事例や、
防止対策の実践Q&A、 セクハラ防止についての人事院規則、国家公務員法に
もとづく苦情処理制度の概要などがまとめられており、まさに、研究機関の
長にとって必要なガイドブックです(この本は、白書などを扱う政府刊行物
取扱店にあります)。
前半は、殺人事件の被害者の家族を例として、心的外傷後に心が経過する
状態と相談者の気持、それに対するカウンセラーの対応が、回復するプロセスに
そって説明されています。性暴力の被害者の場合には、普通の犯罪被害者よりも、
偏見のために被害がより深刻になります。強姦に対する偏見と、強姦にあった人や
その家族への対処のしかたは、セクシュアル・ハラスメントの被害と共通して
います。『あんたも悪かったんじゃないの』などと間違ったセリフを言って
しまわないように、そして『あなたはちっとも悪くないのだよ』と心から言って
あげられるように、相談員になられた方には、ぜひ一読されることをお勧めします。
被害にあった人のパートナーもショックを受け、サポートが必要な場合もあり
ます。パートナーは当人にどのように接したらいいのか、という記述は、心の
回復の大きな助けとなるので、パートナーにぜひ読んでもらいたいと思います。
ストーキングについては、ほとんどふれられておらず、
ストーキング被害の会が紹介されています。また巻末には『安心して相談できる女性グループの
リスト』ものっています。
2。カウンセリング関係
3。セクシュアル・ハラスメント(裁判記録をふくむ)
教育史料出版会、1600円、ISBN 4-87652-382-7
(弁護士)白井 久明、(精神科医)水島広子、 中央経済社、1300円
ISBN 4-502-56514-8
管理者が侵してはならないタブーとして『しばらく様子を見ようと放置しておく』
とか『被害者に、物事のとらえかたを変えて被害者意識をなくせと言う』
『当事者どうしで解決させる』『事実確認の間に自分の主観的な考えをはさむ』
などが具体的にあげられているのはありがたいですね。著者の一人が精神科医
なので、人間の自然な心理の動きからみた、セクハラにたいする反応がわかり
やすく書かれています。また他方の著者は弁護士で、法律講座がついており、
管理する側からみて実際の対処を判断する時の役に立ちます。日本社会の土着的
体質に沿った方向で書いてあるので、内容が受け入れやすく、わかりやすくて、
おすすめです。
人事院セクシュアル・ハラスメント研究会編、公務研修協議会 900円、
1998年
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