プレスリリース詳細説明 (加藤 万里子:慶應大学教授)


9月4日発表:
Ia 型超新星の見えない伴星の謎を解明 -- 自転する白色矮星の爆発と関係 : プレスリリース全文 (pdf) (755KB)


発表論文:
Final Fates of Rotating White Dwarfs and Their Companions in the Single Degenerate Model of Type Ia Supernovae.
Izumi Hachisu, Mariko Kato, & Ken'ichi Nomoto, Astrophysical Journal Letters, 2012, 756, 4.

和文意訳:自転する白色矮星がIa 型超新星爆発をしたときには、伴星はすでに暗くなっているとSD説は予言する。

蜂巣泉(東大総合文化)、加藤万里子(慶応大理工)、野本憲一(東大数物連携) (米国天文学会誌, 2012年9月1日号掲載)


はじめに

超新星は星が大爆発をする華麗な現象として知られているが、超新星のなかでもIa(いちえい)型 超新星は、宇宙の加速膨張の発見で重要な役割をはたした。また宇宙の元素の起源では、鉄族元素を 作り出す天体として、たいへん重要である。

重い星が最後に爆発するII型とは違って、Ia型超新星は白色矮星が爆発する現象である。 白色矮星がどのようにして爆発するかについては、二重白色矮星合体説(DD説)と連星系中の 白色矮星がガスを降着して重くなり爆発するという説(SD説)があり、この2つの説をめぐって、 学界を2分した大論争がこれまで長年続けられてきた。 このうち、現SD説は蜂巣泉(東大総合文化)、加藤万里子(慶大理工)、野本憲一(東大数物連携)に より1996年に提案されたものである。(なお、最初に白色矮星が成長して Ia 型超新星となるという アイディアをとなえたのは Whelan & Iben (1973)である。その後、白色矮星にガスが降着すると新星爆発を起こし、 成長することは難しいことがわかり、Iben 自身によって否定された。それで Iben はDD説を 提案して、これを推進してきた。 蜂巣・加藤・野本の現SD説は、新しい物理を採り入れたもので、この古いSD説とは全く違う。 いわばこれは old SD, 私達のは new SD (あるいは accretion-wind SD)とでもいうべきものである。 もっともDD派の論文では、SD説として 常にいったん否定された old SDだけを紹介し、私達の論文を 完全に抹殺する努力をしているように見える。)

今回発表する論文では、爆発直前の天体が多くの場合暗いことを、SD説できちんと説明できることを示した。 さらに、Ia型超新星の爆発時にガスがある場合も存在することを示し、それらの割合を定量的に 説明した。

これまで観測がすすむにつれ、この観測はSDに有利、いやこちらの観測はDDに有利、どちらも同程度に起こる、 などという論争が続いてきた。 私たちはそれらの議論がわきおこるたびにSD説できちんと説明できることを示してきた。 最近の話題では、超新星 PTF 11kx は爆発前の天体が白色矮星と赤色巨星の連星系であることが わかり、DD派の人たちもぐらっときたこと、さらに1604年に爆発したケプラーの超新星も、 白色矮星と赤色巨星の連星系であることが明らかになったことである。 これらはSD説が正しい証拠となるが、DD説では説明不可能である。 一方、超新星 SN 2011fe は爆発直前の天体は暗くて検出されず、DD説に有利だと言われてきた。一般に 爆発直前には暗い場合が多いと考えられており、これを説明できないSD説は不利だと思われてきた。

こうして最近まで残った議論が、「爆発前に暗かったという観測はSD説に不利」という ものであったが、本論文は、それにたいして定量的にきれいに反論できたというものである。
つまりこの論文で、長年の議論は終結し、Ia型超新星の起源はSD説ですべて説明できるという決着になった。

DD説には理論的欠点が多々あり、また不利な観測的証拠も出てきました。理由はこのページの下にある 『DD説がつぶれた理由』をみて下さい。


背景説明

まずプレスリリースをお読みください。また天文用語に不慣れな方は、このページの下にある用語解説も参考にして下さい。

Ia型超新星は、白色矮星全体の爆発であることはわかっていたが、その白色矮星がいったいどのようにして Ia型超新星を起こすかについて、これまで二十年にわたり、論争がくりひろげられてきた。

1980年代にイベンとツツコフ、およびウェビンクらが提案した二重白色矮星合体説(ここでは古典的DD説と 呼ぶことにする)が提案された。この説には重大な欠陥があり(下記参照)、 1996年に蜂巣、加藤、野本はこれに代わるSD説を出した。 この少し前、1990年代はじめに、星の内部構造を決める上で重要な吸収係数(オパシティ)の表が再計算され、 昔の表とかなり大きな違いがあることがわかった。これにより、明るい星の内部構造は大きく違ってきて、 脈動変光星などの理論が大きく進展し、星の進化理論は完成を見た。加藤は新星風理論を作り、 光度曲線をつぎつぎ計算して、新星がどのように質量放出するかを明らかにした。 この新星風理論を連星系の進化に組み込んで作られたのが、蜂巣、加藤、野本のSD説である。

主には、DDとSDの2つの理論が、長い間、学界を二分する形で論争をくりひろげてきた。 以下の解説にあるように、SD説とDD説の違いをひとことで言えば、DD説は1980年代の天文学、 SD説はそれ以後の進展を採り入れた現代天文学に基づいた理論である。 SD説では、連星系の進化の各段階に相当する天体が同定されており、SD説での進化経路は観測的に 確かめられている。一方、DD説の方は連星系の進化の理論自体に未解明であやふやな過程を含んでいる。 図1のような重い白色矮星と赤色巨星の連星系が実際に存在するのに、古典的DD説では説明できないため、 これまでにいろいろな修正DD説が提案されているが、依然としてあやふやな過程を含んでいる。 DD説の進化理論自体は、積極的にこれを支持するような 途中経過の天体が発見されていないので、観測的にはサポートがないといってよい。

これまで長年にわたり、いろいろな観測結果が提出されるたびに、SSだDDだという論争がくりひろげられてきたが、 SD説に不利だとされる観測が出るたびに、SD説は反論するだけでなく逆に有利な根拠を示してきた。 そのDD派にとって、最後の根拠は、Ia 型超新星の爆発前には、ガスがなく、暗い天体だったものが 多く、爆発時にガスがあるものはごく少ないという観測的統計である。DDにとって、周りにガスがあるIa 型超新星は 説明が難しいので、ガスがない大部分の超新星はDD、ガスがあるものだけSDという解釈が広まっていた。 ところが、最近爆発した、超新星 PTF 11kxでは白色矮星と赤色巨星の連星系だったことが確定している。 古典的なDD説ではこのような天体は理論的に説明がつかないので、1つでも存在が確定すれば、古典的DD説自体が つぶれることになる。この発見により、今まで完全にDD説支持であったPTFグループは、半分SD半分DD説(要するに 両論)支持になったと言われている。

一方、SD説では、爆発前の天体はガスがあるものもないものも存在するが、これまでは、ガスがある方が圧倒的に 多いと考えられてきた。本研究は、それを覆し、ガスが検出される方が少なく、ガスがない方が多いことを理論的に 説明し、定量的にも観測的統計と一致することを示したものである。最後の砦が崩れたことで、SD対DDの論争に 最終決着がつき、SD説が勝利したと言えるだろう。


図1 . 図2 . 図3

左(図1):赤色巨星と白色矮星(右)の連星系。中(図2)白色矮星(左)と主系列星の連星系。 右(図3)爆発直前の連星系(どちらも暗くて観測できない) 説明と大きな図は下にあります。

論文概要:

SD説では、白色矮星が伴星からガスを受けとり、次第に重くなって、ある限界までくると炭素の核爆発が 起こり、Ia 型超新星になると考える。この限界はこれまで白色矮星の上限質量(チャンドラセカール質量: 太陽の約1.4倍)であると考えられてきた。ところが、白色矮星がガスを受け取る様子は図1や図2のように なっており、伴星から降ってくるガスは、降着円盤を作り回転しながら白色矮星に落ちてくる。そのため 白色矮星は(コマ回しのように)ガスの持つ角運動量を受け取り、しだいに自転が速くなる。そのため、 重くなった白色矮星は多かれ少なかれ、高速で自転している。自転が非常に速い場合には、遠心力のために、 白色矮星が(ミカンのように)赤道付近が膨れた形になる。遠心力で重力が小さくなるため、中心密度が低く、 核爆発の条件を満たさないため、チャンドラセカール質量より重くなっても、なかなか超新星爆発をすること ができない。爆発がおこるのは、かなり時間がたって自転が遅くなり、中心密度が上がってからである (どれだけ時間が必要かは角運動量輸送のメカニズムによるので、場合によって違う)。もし、白色矮星が 重くなっても、なかなか爆発しないでいる期間が長いと、伴星がゆっくりと進化をはじめ、最後には 白色矮星になってしまう(図3)。つまり連星系は重い白色矮星と伴星から新しくできた 軽い白色矮星の連星系なる(距離が離れているので合体はしない)。 白色矮星はとても暗い天体で、ガスもまとっていないので、重い方の白色矮星が爆発したとき、ガスは観測されない。

本論文では、これらの経過を定量的にみつもり、SD説で連星系の進化を計算すると(たとえば主系列星2つ からなる連星系が1000個あったとき)、最終的にどのくらいの重さの白色矮星が何割できるかを計算した。 重い白色矮星は、Ia型超新星爆発をしたときに、核燃料が多いために、明るくなる。観測的に決めたIa型超新星の 明るさの頻度分布と比べて、理論計算が一致することを示した。

図4: 本研究が予言する、白色矮星の質量分布。自転がなく、冷たい白色矮星の上限質量はチャンドラセカール 質量といい、太陽質量の1.4倍である。従来の説では、白色矮星がこの値を超えて重くなると、自分自身の 重力を支えることができなくなるので、つぶれて縮むうちに炭素の核爆発を起こし、Ia型超新星として 爆発すると考えられてきた。しかし白色矮星が速く自転していると、チャンドラセカール質量を 超えても、中心密度が低いために核爆発はせず、スピンダウンして自転が遅くなるまで、爆発しない。 爆発するまでの時間内に、伴星からガスが降って来るので、どのくらい重くなるかは、連星系の 進化とスピンダウンとの兼ね合いできまる。
この図は、たとえば1000個のIa型超新星が爆発したとき、爆発の時点で、白色矮星がどのくらい重く なっていたかの分布を示す。大部分が太陽質量の1.4 -1.5 倍、つまりチャンドラセカール質量 程度で爆発する。これくらいの重さだと、高速自転する白色矮星が、スピンダウンして爆発するまでの 時間はすごく長い(角運動量輸送のメカニズムに依るが 10億年程度)ので、その間に、伴星は進化して 白色矮星または質量の小さい暗い星になってしまう(図3の左の星)。その結果、重い白色矮星が Ia 型超新星として爆発したとき、伴星にガスがないので、ガスは全く観測されず、また爆発前の 写真があっても、伴星は写っていない。
一方ごく小数だが、重い白色矮星ができる。この場合には、白色矮星は重くなってすぐ (角運動量の輸送がとても速いので)爆発する。伴星はまだ進化しておらず、赤色巨星か(図1) 主系列星(図2)である。爆発の衝撃で、伴星のガスがはぎとられるので、水素ガスが観測にかかる。 これらは重い白色矮星であり、燃料がたくさんあるので、Ia型超新星の中でも特に明るい。白色矮星の 重さの分布とIa 型超新星の明るさの分布は図4と一致している(これはこの説が正しいことを示している)。


この研究の新しい点:

従来の研究では、白色矮星の質量がチャンドラセカール質量(約 1.4 太陽質量)に達すると、すぐに Ia型超新星爆発を起こすと考えられてきたが、白色矮星の自転を考えると、そうではなく、約半数は 1.4-1.5倍の太陽質量だが、残りはもっと重いこと。白色矮星の重さの分布は、観測でわかっている チャンドラセカール質量を超えるIa型超新星の明るさの分布と一致することを示した。


用語解説:

超新星

超新星は星が大爆発をする現象で、星がかかわる爆発ではもっとも規模が大きい。 爆発時のスペクトルに水素のスペクトル線がみられるものがII型、みられないものがI型と分類されている。 それぞれ細分化されており、II型は光度曲線がまっすぐ落ちるタイプ II L型(に エル と読む)と、光度曲線が 途中で平らになってまた下がるタイプ II P型(に ピー)に分けられる。どちらも重い星が一生の最後に 爆発するもので、星の中心に鉄のコアができ、それが光分解して重力崩壊するときに爆発する。 I型の方は、Ia, Ib, Ic と分類されており(いちえい、いちびー、いちしーと読む)、このうち Ia型は 白色矮星が爆発するものである。Ib とIc は重い星の重力崩壊で、II型と基本的には同じであるが、 連星系のメンバーであったために、相手の星の影響で、水素外層が失われており、爆発時には水素が なくなっていたため、II型に分類されている。

SD説 (単独白色矮星説:single degenerateの略):

1996年に蜂巣、加藤、野本が発表した説で、連星系の進化に加藤の新星風理論を採り入れた新しい説。 連星系が2つの主系列星のペアとして生まれてから、2星間で複雑なガスのやりとりがあり、最後には 白色矮星と主系列星の連星系(図2)か、または白色矮星と赤色巨星(図1)の連星系となる。 ここで白色矮星は非常に重く、白色矮星の上限質量であるチャンドラセカール質量(太陽質量の約1.4倍)に近い。 直前の天体に対応するのが回帰新星である(図1と図2)。これ以外にも、その前の連星系の進化段階に 相当する天体(超軟X線源など)が次々とみつかってきている。つまり、SD理論では、連星系の進化の道筋そのものが 観測的に確定していると言える。
SD説では爆発直前には図1や図2のような天体であると思われていたため、白色矮星が爆発すると、伴星の ガスが飛び散ることになるので、水素が観測されるはずである。ところが、観測的には、Ia型超新星の爆発前は、 大部分が非常に暗く、爆発時にガスの存在が検出される場合はごく限られてることがわかってきた。そこで これはSD説には都合が悪く、DD説を支持するものだと考えられてきた。これがSD説を支持しない最後の砦と なっていた。本研究では、SD理論では、ガスがある場合とない場合(図3)の両方を、定量的に説明するものである。

DD説(二重白色矮星の合体説:double degenerate の略)

1980年代にイベンとツツコフ、およびウェビンクらが発表した説で、連星系がいろいろな進化過程をへて、 最後に2つの白色矮星となり、その2つの星が重力波を出して次第に近付き、最後には接触し、合体して 爆発するという説。1980年代に考案されたため、それ以後の天文学理論の進展を採り入れておらず、 理論的にも難点が多々指摘されている。最大の難点は、1990年代以後の理論的な進展を連星系の進化にとり 入れると、重い二重白色矮星連星系がほとんどできないこと、また、2つの白色矮星が合体するとき、 核反応が白色矮星の中心ではなく表面で起こるために、核反応が弱く、超新星爆発は起こさない。 また、この説では、連星系の進化の過程で、非常に重い白色矮星と赤色巨星の連星系はほとんど生まれない ため、回帰新星(図1)のような天体の存在が説明できないことである。 観測的には、超新星として爆発しそうな二重白色矮星の連星系がほとんどみつかっていないことも欠点である。 この説では、爆発直前の天体は暗い白色矮星の連星系なので、
(1)爆発した時に水素がまったく観測されない
(2)爆発前の天体は非常に暗くてX線天文衛星でも検出されないことが予言される。
実際、多くの超新星では、爆発前の天体は暗いことが観測的に指摘されており、これがDD説を支持する人々の 根拠とされてきた。超新星 PTF 11kx は、 爆発前の天体が二重白色矮星ではなく、白色矮星と赤色巨星の 連星系であることが明確なので、古典的なDD説は窮地に追い込まれた。

連星系の進化

暗黒星雲からはたくさんの星が同時に誕生する。単独の星もあれば、連星系となって生まれる星もある。 連星系のうち、2つの星の間隔がやや狭いと、主系列星が互いの周りをまわっている連星系として誕生する。 星は一生の間に半径が大きく変わる。単独の星は、主系列星から赤色巨星に進化し、その後は 星の質量に応じて、白色矮星になったり、II型超新星爆発を起こした後で中性子星やブラックホールになる。 連星系の場合、2つの星の距離が十分離れていれば、それぞれの星の一生は単独の星の一生と変わらない。 連星系の2つの星の距離が近い場合には、重い方の星が先に赤色巨星になって半径が数百倍に なるので、伴星がその付近にいると、ガスがその伴星にふりそそいだり、連星系からガスが飛び出し、 その結果、2つの星の質量が増減したり、間隔がぐっと小さくなることがある。これらの過程を正確に とりいれて、連星系がどのように変わっていくかをコンピュータで数値解析して連星系の進化を知る ことができる。

図1:赤色巨星(左)と重い白色矮星の連星系。連星の回転周期は1年程度。 赤色巨星からガスが白色矮星の方へ落下し、降着円盤を形成して 最終的には白色矮星へ降り注ぐ。回帰新星 T CrB (かんむり座T星)、 RS Oph (へびつかい座RS星)などは このような連星系で、白色矮星の重さはどちらも太陽質量の1.35倍程度なので、もう少し白色矮星が 重くなれば、Ia型超新星として爆発するだろうと考えられている。

図2:重い白色矮星(左)と主系列星の連星系。白色矮星が明るい時期には、このように降着円盤と 伴星が照らされて、明るくなっている。伴星の上には降着円盤の影がみえる。この図は 回帰新星 U Sco (さそり座U星)の想像図。白色矮星は非常に重く、太陽質量の1.37倍以上はあると 考えられている。連星周期は1日程度なので、図1の連星系と比べると、2つの星の間隔はずっと狭く、 1/10-1/100くらいである (つまり図1は左の星が赤色巨星なので、半径が主系列星よりずっと大きい)。

図3:本研究が予言する、爆発直前の連星系。爆発するはずの重い白色矮星は右側にあるが、すでに暗くなって いて見えず、左の伴星(赤い星)も進化がすすみ、かなり暗くなっている。時間がたてば、左の星もさらに暗い 白色矮星となり、観測にかからなくなる。 このような状態で右側の白色矮星が超新星爆発しても、ガスは飛び散らず、爆発前の写真を見ても 何も写っていないだろう。


DD説がつぶれた理由

理論的な欠点

  • 昔から知られている欠点:2つの白色矮星が合体すると、軽い方の白色矮星が潮汐力で破壊され、 重い方の白色矮星のまわりに円盤状にとりまく。炭素の核融合反応は、中心ではなく重い白色矮星の 表面ではじまるため、表面から核反応が中心へ伝達し、Ne, O, Mg に変換され、最後には中性子星になる。 つまり爆発は起こさない。これは斉尾・野本が1998年にあきらかにしたが、DD派の人々は、質量降着率が 違うから、といって無視してきた。最近の数値計算でも、合体のさいに爆発を起こさないことが明らかになって きている。

  • はじめ、2つの主系列星からはじまった連星系からどのようにして2つの白色矮星ができるのか。 主系列星2つの連星系は、重い星がさきに進化して、赤色巨星になる。相手の星が近くにいれば、その重力の ため、ガスが連星外に出るため、角運動量を失い、2星の間隔が縮まって、白色矮星と伴星(主系列星)の連星系に なる。DD説では、このあと、伴星が赤色巨星になると、ふたたび共通大気進化が起こり、二重白色矮星ができる (それも軌道周期がごく短いもの)となっている。ただし、これは1980年代の理論である。 1990年以後の理論では、白色矮星に伴星からガスがふりそそぐと、新星風がおこり、共通大気進化は起こらない。 白色矮星にガスが降りそそいでいる天体のひとつが、図1や図2のような回帰新星である。

  • SD説の連星系の進化では、白色矮星と伴星のペアができ、伴星が進化のために膨れて、伴星から 白色矮星に質量降着する。当初は、質量降着率が大きく、次第に下がってくる。連星系は、時間的に 進化し、はじめは白色矮星から新星風が吹く wind phase, その次に定常的に水素が燃える SSS phase, 次に 回帰新星へとかわっていく。SD説では、Ia 型超新星への道筋が2つ知られており、最後に図1のRS Oph のような 回帰新星になるタイプと、図2の U Sco になるタイプがある。どちらの道筋も、途中経過にあたる天体が 知られている。つまりSD 説の連星系の進化は観測的にサポートがある。いっぽうDD 説にはサポートがない。

  • DD説では、RS Oph (図1)のような回帰新星は存在できない。上記で、1度目の共通大気進化のあと、 すべて近接連星系になってしまう(そうでないと2度目の共通大気進化のあと二重白色矮星にならないから)ので、 存在できないのだ。これは共通大気進化のときのパラメタ(軌道がどれだけ縮むかをあらわす効率みたいなもの)を、 かなり大きくとっているため。観測で求められているこのパラメタはすごく小さいが、無視されている。 RS Oph ができないことは、最近まで重視されてこなかった、というかDD派は自分に都合の悪いことは見ない ふりをしてきた傾向がある。

  • 星の内部構造をきめる重要な吸収係数 (OPACITY) は1990年代はじめに改定され、新しいものには大きな ピークがあり、星の内部構造を大きく変えた。(加藤の新星風理論はこの大きなピークにより、ガスが加速されて 新星からガスが吹き飛ぶというものである) DD派の人々、特に古典的DDの人々はこの吸収係数を全く使わない。 ちょっと信じがたいことだが、DD派の人々は、新しいOPACITY の値は昔のものと変わらないと論文に書いていて、 新星爆発のとき、ガスが大きくふくらむ計算は1980年代の値をもとにしている。つまりガスは膨らむと 瞬間的に伴星により加速され、連星系から出ていくはずだと思っておいるので、白色矮星は重くなることはない。 これは1980年代の天文学であり、間違っている (加藤・蜂巣が新星の光度曲線の論文を大量に書いて、まさつは効かないと示しているし、だいいち観測からも 伴星の影響による急な減光はみられない)。 SD説では、(加藤の新星風理論では)回帰新星の爆発は弱いので、 爆発前に積もったガスは半分くらい残るので、白色矮星の質量は爆発後にすこし増える。

    というわけで、DD説では、重い白色矮星は、生まれた時から重かったはずなので、すべてO Ne Mg から成る 白色矮星である。したがって、回帰新星の重い白色矮星が、爆発して Ia 型超新星になることは不可能 である。(ただし DD派の人々は圧倒的に勉強不足なので、これをちゃんと認識してはいないようである)

  • 去年爆発したIa 型超新星 PTF 11kx :これは爆発前の天体が白色矮星と赤色巨星であった、つまり 図1のような天体であったことが明確であり、DD説では説明できず、言い訳が全くできない。 そのため、純粋にDD派であった人々も、爆発前にガスがある超新星だけは SD、それ以外の爆発前に 暗いものは全部 DD と考えなおすかもしれない。ただし、これは理論的には不可能で、1つ存在すれば、 古典的 DD は完全につぶれる。

  • 本論文では、DDがまったくなくても、SDですべて説明できることを示した。ガスがあるものも、 ないものも、その明るさの分布もSDで説明できる。理論的には、SD説には過不足が無い。 逆に、DDでは直接説明できないIa型がいくつも出てきた。決着がついたのではないか。


    (C) 2012 MARIKO KATO, Last updated: 3 Sep. 2012