受賞タイトル後半の説明

                                             by Kato

★難問「Ia型超新星はどうやってできる?」を解決する
Ia 型超新星は、連星系中の白色矮星が爆発しておこります。白色矮星はふつうは
爆発しません。隣の星からガスがふりそそぎ、白色矮星が重くなって限界
(これを発見してノーベル物理学賞をもらった天体物理学者の名前をとって、
チャンドラセカール限界質量と言う)に達すると、爆発します。
  ところが、白色矮星を太らせる方法がみつからなかったのです。白色矮星に隣の
星からガスが降ってくるとき、ちょろちょろガスが降ると新星爆発を起こします。
爆発といっても、表面の現象なので白色矮星は無事なのですが、表面がけずられて
白色矮星はやせ細ります。つまりIa型超新星にはなりません。では隣の星からガスが
どどっと降る場合には、新星にはならず、ガスがあふれて連星系の2つの星を包み
込むようになります。中で回っている連星系にはじかれて、ガスが遠くに飛ばされ、
その反動で連星系の2つの星は合体してしまい、これまたIa型超新星にはならない、
と考えられてきました。これを解決したのは蜂巣らです。

★パラダイムチェンジをもたらしたキープロセス
  加藤が新星の研究で確立した新星風理論は、新星の爆発の様子を追いかけるために
作ったものですが、これは別の場合にも使うことができます。新星は白色矮星とふつう
の星から成る連星系で起こりますが、同じような連星系でも、ふつうの星からどどっと
ガスが降って来る場合には、新星にはなりません。(ちょろちょろガスが降るときに
新星になる)
  従来の理論では、どどっとガスが降ってきた時には、連星系の2つの星が合体して
しまうと考えられていました。ところが、加藤の新星風理論を考慮すると、白色矮星
から高速のガスが吹き出すため、連星系は合体しません。ささいな違いのようです
が、連星系の運命は大きく変わります。従来この業界でパラダイムとされてきた
プロセス(共通外層進化と呼ぶ)が成り立たず、連星系は合体せずに、ガスが白色
矮星の上に降りそそぎます。そして白色矮星が太ることが可能になりました。
白色矮星がガスを受け取って太りつづけることができれば、Ia 型超新星として
爆発することが可能になります。


★Ia型超新星への2つの道筋
連星系は生まれた時から2つの星が互いにまわりを回っている系です。時間が
たつと、重い星の方が進化して赤色巨星になります。そのとき半径がふくらむので
赤色巨星のガスが、他方の星に流れ込むことがあります。このように連星系の星は
ガスのやりとりをするので、単独の星とは一生の道筋が違うことがあります。
蜂巣はこれらの連星系の星がどうなるかを計算し、最後にIa 型超新星になる道筋が、
2とおりあることをみつけました。

この2つの道筋を説明することは、研究にとって肝心なのですが、複雑すぎるので
図で代用してしまいましょう。連星系が生まれた時は、2つの星は離れているの
ですが、一方の星が進化して膨らみ、ガスが連星系から逃げると、2つの星は
ぐっと近づきます。最後は一方の星が白色矮星になり、それが相手からガスを
もらって重くなり、超新星爆発します。

道筋その1
拡大図(93KB)巨大図(324KB)

道筋その2
拡大図(54KB)巨大図(180KB)

拡大図(62KB)巨大図(220KB)

★ 裏話:競争相手イベンとツツコフ
受賞理由の前半の説明で、加藤が米国に子づれ単身赴任をした、と書きました。
イリノイ大学のイベンが加藤をやとってくれたので、2年間客員助教授として
いきました。その間、夫である蜂巣は、夏休み、冬休みなど休みのたびにアメリカへ
来て、いっしょに大学で研究しました。加藤がイベンに雇われることになったのは、
まず加藤が外国に行きたいと思って、数人の天文学者に手紙を出したことから始まり
ます。
   ある国際会議に加藤・蜂巣が参加したとき、イベンも来ていました。そのころ
イベンはロシアのツツコフといっしょに、Ia 型超新星のモデルを研究しており、
イベンはこの業界で超有名なので(この少しあとにエディントンメダルを受賞)、
彼らのモデルが業界スタンダードのように思われておりました。そのモデルに
蜂巣はまっこうから反対するモデルを提案していたのです。会議でのツツコフの
講演のあとの質問に、蜂巣が立ち上がって「イベンとおまえの理論は間違って
いる」と発言、あとでツツコフは「日本人はいつもそうだ。休憩時間にはにこにこ
しているのに、会議中に反対意見を言う」とこぼしていました。この「いつも」と
いうのは某S教授のことであります。
  その夜、加藤がイベンに、「私をやとわないか?私を雇えば夫もついてくるぞ」
イベン「おまえの夫は誰だ?」   加藤「蜂巣だ」   イベン「ウワー、あの男か!」
というわけで、大受けしました。太っ腹のイベンは、それでも私を雇いました。
そして私は幼児をつれて単身赴任することになったのです。

★なお詳しい説明は ここを クリックして2番目の解説をみて下さい。