驚異の新星 -アンドロメダ銀河の1年周期の回帰新星 M31N 2008-12a

観測のすすめ

爆発年

この回帰新星はこれまで爆発が何度も観測されていて、可視光では、 2008年12月26日(西山さんと樺島さんが発見)、 2009年12月3日、 2011年10月23日、 2012年10月19日(西山さんと樺島さんが発見) 2013年11月28日、 2014年10月3日 (日付はUT)の6回観測されています。他の回帰新星と比べるとかなり定期的です。 2010年の爆発は検出されませんでした。iPTF(The intermediate Palomar Transient Factory)が毎日 観測していたのですが、11月に観測しなかった期間があり(11月10-12日、20-27日) 、そのときに 爆発したのを見逃した可能性があります。 X線では2012年以後 Swift 衛星が毎回観測しているほか、過去のデータアーカイブから1992年と 1993年(ROSAT)、2001年(Chanra)にそれらしい増光があります(ただしROSATは角度分解能が悪いので 確定ではない)。

この新星はなぜめずらしいのか?

新星は連星系中の白色矮星に伴星からガスがふりそそぎ、そのガスの量がある一定量に達すると 水素の核融合反応が激しく起こってはじまる現象です。同じ白色矮星が周期的に何度も爆発を 繰り返すのですが、その周期が非常に長いと、人類にとっては1度しか観測されません。 爆発と爆発の間の期間(回帰周期)は連星系によって違います。 理論的には白色矮星が重く、降り注ぐガスの量が多い(単位時間あたり)とき、回帰周期 が短くなります。これまでに何度も爆発が観測されているものを回帰新星といいます。 短いものでは、さそり座U星 (U Sco) は回帰周期が 8-12年程度、へびつかい座RS星 (RS Oph) 10-20年が知られています。 2012年と2013年に、X線天文衛星(Swift)がX線を検出してから、この新星の周期がたったの 1年であることが知れ渡り、注目を集めるようになりました。理論的には、回帰周期が短いことは 白色矮星が非常に重いことを意味するので、これが Ia型超新星の爆発直前の天体(親天体)候補で あると考えられるからです。1年周期の回帰新星は他にないので、この天体はとても貴重です。

昨年(2014)の光度曲線

拡大図はここ(large version)

昨年(2014)の可視光(V)、X線の光度曲線と理論曲線の比較

拡大図はここ(large version)

上の図は2014年10月の爆発の観測データです。黒い線のそばにある丸い印が観測データで、 青が前原さん(木曾の1.05 m Schmidt望遠鏡)、赤が清田さん、黒は外国のデータです (すべてV等級)。清田さんのデータはインターネット望遠鏡による観測で、米国(カリフォルニア 24インチ)と(ニューメキシコ州20インチ)のものです(3点あるが後の2点は重なっている)。 この新星は減光が非常に早く、5日目には下がってしまいました。 前原さんと清田さんの最初のデータは新星のピークより前で、光度曲線が平らになっている ことを示すたいへん貴重なデータです。残念なことにこの観測の直後に日本は大型台風のため、 全国的に観測不可能になってしまいました。 図の実線は理論曲線で、白色矮星の重さは1.38太陽質量で良く合います。通常の古典新星は 質量が1太陽質量程度、回帰新星は 1.35-1.37太陽質量程度だと考えられているので、この新星は 質量に関しては別格で重いことになります。黒い線が可視光の光度曲線(free-free emission)で わずか4日ですとんと落ちています。観測データの方は5日目くらいからばらついているのは、 おそらくnebular phase に入って輝線が明るくなったためだと考えられます。(理論曲線には 輝線の明るさは入っていない)

赤い線は超軟X線の明るさです(0.2 keV-1.0 keV)。新星爆発がおきて、可視光がピーク後に 暗くなると、UVで明るくなり、その後、X線で明るくなることは知られていますが、多数の 古典新星で軟X線の観測があります。たいていは可視光のピークの後、数ヵ月たってからX線で 明るくなるのですが、この新星はさすがになんでも早く、たったの5-6日目でX線が明るくなり、 18日後には暗くなってしまいました。 赤い十字入りの丸印は Swift 衛星によるX線のデータです。データは見やすくするため、 理論に合わせるように、ちょっと下にずらしました。X線の立ち上がりと終りの減光の時期が よくあっていることがわかります。X線の期間がこんなに短いのは、やはり白色矮星が非常に 重いからだと考えられます。 この図はまた、可視光のピークより前に、X線で明るい時期があることを示しています。これは 新星爆発が起こった直後にはまず白色矮星が明るくなってから、半径が大きくなり温度が下がる ためで、このように重い白色矮星だと半日程度しか続かないと予想されています。このような X-ray flash はどの新星でもまだ検出されていません。

密な観測の重要性

このように重い白色矮星は Ia型超新星の親天体である可能性が高く、爆発前の状態をよく調べる ことは超新星の研究にもつながります。また新星研究自体としてもたいへん貴重です。 なにしろ、毎年、秋に爆発するとわかっているので、待ちかまえていれば、(天気がよく運がよければ) 増光のごく初期をとらえることが可能です。新星の立ち上がりのスペクトルは非常に珍しく もし撮影できれば、理論研究にもたいへん重要な手がかりとなります。 ただし、この新星はとても減光が早く、ピークが暗い上に(18等を超えない)たった5日で暗くなって しまうため、きちんとした光度曲線データを得るためには、世界中の協力が欠かせません。 日本、アメリカ、ヨーロッパにある中型望遠鏡で24時間交替で観測しないと、あっとい間に 減光してしまいます。そのため、1晩に数回(できれば2時間おきに)観測していただきたいです。 日本の望遠鏡が協力して分担すれば、1箇所あたりの負担は大きくならずにすみます(たぶん)。 理論と比較するためにはフィルターなしや、 Rフィルターではなく(輝線が入るから)、 Vフィルター、できれば、UBVの測光をお願いします。スペクトルが取れるところはぜひ取って 下さい。 さて今年はいつ爆発するでしょうか?台風とかちあわないことを祈ります。 去年(2014年)は、みんなが爆発はまだ先だろうと油断していたなか、早め(10月3日)に爆発しました。
新星観測についてはこちらもどうぞ。
  • 古典新星の理論 (簡単な解説です)
  • yフィルターによる観測のすすめ
    M31N 2008-12a に関する文献 1) "A remarkable recurrent nova in M 31: The predicted 2014 outburst in X-rays with Swift" M. Henze, J.-U. Ness, M. J. Darnley, M. F. Bode, S. C. Williams, A. W. Shafter, G. Sala, M. Kato, I. Hachisu, M. Hernanz, 2015, AA, in press (arXiv: 1504.06237) 2014年の爆発のX線データ 2) "A remarkable recurrent nova in M 31: Discovery and optical/UV observations of the predicted 2014 eruption" M. J. Darnley, M. Henze,,,, I. Hachisu,,,, M.Kato, S. Kiyota,, H.Maehara,,,,,, (total 21 authors), 2015, AA, in press (arXiv: 1506.04202) 2014年の爆発の可視光観測のデータ 3) " Multi-wavelength light curve model of the one-year recurrence period nova M31N2008-12a" Mariko Kato, Hideyuki Saio, and Izumi Hachisu, 2015, ApJ, in press, (arXiv: 1506.05364) 図の理論曲線が出ています 4) " An accreting WD near the chandrasekhar limit in the Andromeda galaxy" Tang et al. 2014, ApJ. 786:61 2013年の爆発の可視光データ 5) "A remarkable recurrent nova in M31: The optical observations" Darnley et al. 2014, AAp, 563, L9 2013年の爆発の可視光データ 6) "A remarkable recurrent nova in M31: The X-ray observations" Henze et al. Henze et al. 2014, AAp, 563, L8 2013年の爆発のX線データ
  • 加藤万里子(天文学教室)のホームページへ戻る

    (c) 2015 Mariko Kato