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 学会会場に広がる保育室  
      -- 若手研究者励ます
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                  写真2枚:天文学会1997年の保育室風景(副代表2人の親子)
                            加藤の顔写真
(前文)
 最近、自然科学系の学会で、大会に子づれで参加する研究者のために、保育室を
準備するところが増えてきました。「学会会場に保育室設置をすすめる科学者
連絡会」の代表、加藤万里子さん(慶応大学助教授)に、この問題にとりくんでの
思いを寄せてもらいました。

                                       慶應大学助教授  加藤 万里子

 私は天文学会での保育室の立ち上げにかかわり、情報交換のための電子メールネッ
トワークにもかかわってきました。理工系では、いまだに女性がとても少ない学会が
多いのです。私が大学院生だった二十数年前には、天文学分野の女性は全国でたった
四人で、初めて天文学会に出席した私は、大きな会場を埋めつくすネズミ色の背広に
びっくりしました。今では、若い女性も増え、男女を問わずカジュアルになり、背広
は少数派です。天文学研究者千二百名のうち八%が女性です。


<独身男性からの激励に感動して>
 私の子どもが小さいころには、まだ子持ちの女性研究者は二人目といほど例外的存
在でした。でも研究者の人口がふえ、女性研究者が増加すると、子づれでなければ参
加できない人も増えてきます。
 
 天文学会で初めて保育室が設置されたのは九七年春。言い出したのは私ですが、執
行部の後押しもありました。はじめての試みなので、まず、天文学者に電子メールで
アンケートをとったら、ぜひ設置してほしいとの切実な意見のほかに、子持ちではな
い人や独身男性からも激励が来て、感激でした。

 主な反対意見は『事故があったら困る』というものだったので、保育室立ち上げの
ためのネットワーク(獅子座ネット)をつくり、意見のすれ違いが出ないように議論
を十分にして、詳細な規定を作りました。何かあったら親を会場から呼び出す、事故
時の保障は、派遣会社が掛けている保険の範囲に限定するなどです。

 このような作業は、結構手間がかかります。多くの人が同じ苦労を繰り返すさなく
てもすむかもしれないと重い、ホームページで情報を公開することにしました。設置
のためのノウハウや、反対意見と説得方法、運営のしかた等を出してあります。



<10をこす学会に設置されました>
 これをみて保育室設置を試みる学会や、また独自に設置をはたらきかけていた学会
も加わり、獅子座ネットの議論もにぎやかになりました。水産学会、土壌肥料学会、
細胞生物学会、物理学会など、設置学会が十を超えています。それぞれが独自にネッ
トで議論をしたり、ネットの会員どうしが連絡したりする場合もあります。インター
ネットは、分野や地域を超えて「超マイナー」な情報交換をするのにも便利だと実感
します。

 天文学会の保育室は、学会として運営するので、予算もつき、父母の負担は軽くす
みます。私が学会の役員になったことも運営にプラスでした。でも獅子座ネットには、
小さな学会で保育室の立ち上げに苦労する話が入ってきます。役員に女性がいない学
会も多く、いまだに、子供を学会につれてくるなんてかわいそうという雰囲気のとこ
ろもあります。また、やっと保育室が設置できても補助金がなく、毎回カンパ集めに
苦心する人もいます。そこで理解を広めるために、『学会会場に保育室設置をすすめ
る科学者連絡会』をつくり、九九年五月にアピールを出しました。でも世間から注目
されたとは言いがたいですね。

 保育室は決して一部のママさんのためにあるのではありません。ハワイ観測所に勤
めるお父さんが、子どもをつれて日本へ出張することもあります。学会役員の立場か
らみると、保育室があればこそ、若い人に気軽に役員を頼めるし、研究発表も奨励で
きます。


<保育室を通じた意見交換から>
 今は、若手研究者の就職がとても厳しく、アンケート調査でも、若い人が将来への
大きな不安をかかえていることがわかります。学会の保育室は、いろいろな意味で、
若い研究者を励ますことにもなっているのです。若手や女性研究者のかかえる悩みは
山ほどあります。保育室はささやかですが、いろいろな問題を解決する第一歩だと
思っています。それに保育室設置を通じて、意見やアドバイスを交換できることは、
女性研究者の少ない分野では、大切な役割をしていると思います。
 なお、筆者のホームページは
      http://sunrise.hc.keio.ac.jp/~mariko/astro.html 


(おわり:タイトルと小見出しは編集部がつけました)
しんぶん赤旗  2000年10月21日(土)掲載

(注:)1997年3月に天文学会で保育室がはじめて設置されたことを報じた
     サンケイ新聞の見出しは『ママさん研究者に朗報--「託児室完備の学会増える」』
     というものでした(1997.4.1)。2000年9月に物理学会が保育室を設置する
     朝日新聞の記事も、見出しは『ママさん学者、発表の場安心--学会会場に託児室
     広がる」』です。

     そこで上の記事では、保育室はママさんのためだけでない、と書きました。

(笑い話)朝日新聞に掲載された、物理学会での保育室設置の記事の中で、加藤が会の
        代表としてコメントしているのを読んだからと言って、しんんぶん赤旗から
        記事の依頼がありました。
        以前には、別のことですが、サンケイ新聞に出た私の記事を読んだからといって、
        読売新聞の記者が取材に来たことがあります。