理系学生に文章を指導するユニークな授業が、慶応大理工学部(横浜市港北区)に開設されている。卒業論文などに論理的文章が書けない学生が多いためで、学部を挙げて、こうした指導をしている大学は珍しいという。
この授業は「総合教育セミナー」。理工学部は昨年度大幅な改革をし、学科の枠を超えた「総合教育科目」を柱のひとつに据えた。その科目の中で特に新設された演習授業が、このセミナーだ。一クラス二十人で二十クラス。文系、理系の幅広い分野の教員が担当する。
授業のねらいは、「書く」「話す」技術を身につけ、自分の考えを伝えられるようになること。ちなみに理工学部の入試科目に小論文はない。改革の中心メンバーのひとり、山崎信寿・理工学部教授(生体力学)は「理工系は客観的に文章を書く必要がある。しかし、学生は主観的な文章を書く教育は受けていても、客観的に書く教育は受けていない。卒論になって、『てにをは』から論理展開まで何回も直さなければならなかった」と語る。
加藤万里子助教授(天文物理学)は「宇宙と人間」というテーマで開設。書かせること、口頭発表を徹底させ、天文学の絵本も作らせた。提出課題のリポートは「内容がダブっている」「急に『それ』で始まると読者は何のことか分からない」など細かに添削した。「手間がかかるが、コツが分かると学生はすごく伸びる。手ごたえがあった」という。
昨年、加藤助教授の授業を受講、『ほし』という絵本を作った有我亜紀子さん(一九)=応用化学科二年=は「大学でこういう授業があるとは思わなかった。文章を書くのは苦手だったが、練習を重ねるうちに書けるようになった。段落の最初に重要な文章をという練習が役に立った」と話す。
加藤助教授は、先月行われた日本天文学会年会で、授業の試みを発表した。同じ悩みをもつほかの大学の教員から注目されたが、「手間がかかるし、専門と一般教養の教員の協力も難しい」と二の足を踏むケースが多いようだったという。
慶応の総合教育セミナーは今年度も三講座増やし開設される。山崎教授は「確かに手間のかかる授業だが、将来への投資と考えている」と、意欲的だ。