創発的人間への第1歩--考える学生を育てるには

加藤万里子(慶応大)
理工学部の1年生を対象として、グループ発表と天文の絵本作成という新しい形式の 授業を行った
ので報告する。この授業のねらいは、疑問をもてるようになる、 質問を出せる、自分の意見を
発表できる、自分の意見を文章にできる、本の構成を 考える、である。

半年間の授業なのでややきついが、天文学の問題を題材にしてグループ発表を 各班2回、レポート
各人3題、および絵本を各人1冊作成 する課題を出した。具体的には、グループ発表は3人1組で
教科書の問題を共同 発表しそのあと質疑応答(90分で2題計4班)、レポートの課題は(1)トピッ
ク センテンスとは何か等文章テクニックについて (2)天文の問題1題を回答する (3)本の前書き
と後書きには何が書いてあるか、である。絵本は天文学の教科書に ある問題を4題入れることを条
件として、ストーリーと主人公を適当に作るもので ある。その間、科学の絵本を持ち寄ってその場
で読んでコメントしたり、科学書の 前書きと後書きに何が書いてあるか発表(1人3分)をした。

文章技術はテクニックであるので、演習科目で鍛えればある程度の上達は期待できる。 ただ学生と
担当者双方に負担がかかるため、ノウハウの蓄積をして効率的に行うことが 重要である。したがっ
て教員間で協力して組織的に行うことが望ましい。

この講義は、慶応大学理工学部で平成8年度からスタートした新カリキュラムの なかの総合教育セ
ミナーという科目の1コマである。この総合教育セミナーは、 1クラス20名以内の学生に対し、
論理的思考とレポート作成および発表能力を つけさせようとする演習科目である。半年2単位で、
今年度は20クラスを開講し 1年生の約4割をカバーしている。テーマは文系理系とりまぜてユニー
クなものが 多い。また新しい科目であるため担当者会議を開き経験談を出し合い、自己評価の
ための統一アンケートを実施し、また担当者の負担を軽減するために、担当者むけの 詳細なマニュ
アルも作成した。会場では学生の作った絵本を展示し、 他のテーマや科目全体としての授業評価も
あわせて紹介する。

日本天文学会 1997年春季年会 講演