理科Iの教科書にみる女と男の数の差
                                  加藤万里子、宮内良子

 文科系の学生にも,科学教育が必要なことは言うまでもないが,苦手意識
をもっているために真剣に勉強したがらない学生は多い.この苦手意識を分
析し,とりのぞくことは,科学教育をするうえで大切なことだと考える.
 科学とくに物理は女の子にきらわれているが,それは単に難しいとか,式
が出てくるといった単純なものではない.物理を本気で学ぶことは,いわゆ
るかわいい女の子としての生きかたと矛盾するという気持(天文月報74(1981)
350)が無意識に勉強のジャマをしている.科学などわからないほうが,女の
子としてかわいらしいという意識が,多かれ少なかれ世の人々の間にあるの
ではないだろうか.

 こういった男女の役割分担意識は女子の生きかたを制限するのみならず,
男子をも不幸にする.男は科学や機械に強くなければならないという意識は,
文科系の男子学生によくみられる科学コンプレックスを女子より深く,複雑
にする.女子は科学が苦手でもあっけらかんとしているのにたいし,男子は
欝屈して心のなかに深い影をもつ.

 これらの科学の苦手意識は大学入学時にはすでに形成されている.そこで
現在使われている理科Iの教科書をとりあげ,さし絵や写真に出てくる女と
男の数を調べた(下表).統計中,手や足など部分だけのもの,小さかったり,
単純化した絵で性別の分らないものは除いた.気付いたことを簡単にまとめる.
(1)挿絵に登場する人物は男が圧倒的に多い.男子は望遠鏡をのぞいたり,
スカイダイビング,医師,自動車の運転,宇宙飛行士,スポ−ツ,発掘現場
など多彩な活動場面があるのにたいし,女子の登場はまれで,それも比較的
おとなしいポ−ズが多い.歴史上の人物として女性をとりあげたものはなかった.
(2)進化や環境問題の挿絵のなかで,”人類”として描かれているのは,
どの出版社のものでもきまって男である.また物理の力のベクトルの場面で,
荷物をおしているのは男,生活用水の説明で,皿あらいをしているのは女,
などパタ−ンがきまっている.
(3)筋肉力のグラフ(大日本図書)のように男が女よりまさっていると
いわんばかりの記述もみられる.
 年会では具体例を報告する.

  (表 省略)
天文学会秋期年会発表(1989年10月)

1989 www版