おみやげ考


私は旅行が好きだが、おみやげは買わない。本当に欲しいと思うものはそうそうないし、
おいしい物はその場で食べるのが一番だ。夫婦で天文学者だから学会も一緒。国内の学会は
各大学が持ち回りだから、これまで日本中をかなり回った。国際会議も毎年二人で行く。
その都度こどもはおばあちゃんと留守番だが、仕事で行くのになぜお土産を買って帰らな
ければならないんだ?という理屈で子どもを育てたし、こどもの方でも、何か買ってもらう
時は、自分で好きなものを選びたいから、おみやげは欲しがらない。

 ヴェネツィア

子どもが小学生から高校にかけて、私はよく秋に1週間くらい一人旅をした。9月なら
旅館はすいていて、女の一人旅でも歓迎される。家を出る時は、詳しい行き先を決めず、
旅館も決めずにただ家を出る。「人形の家」のノラになった気分(ちょっと違うが)で、早朝
駅に向かうときは壮快だった。小説など読みながらその日の気分で好きな場所に行き、季節
はずれの花火大会とかおまつりの残滓にめぐりあったりして楽しむ。旅行が終ると、来年は
どこへ行こうかと一年かけて考えるのが楽しみだった。私が居ない間は子どもとその父親は
置き去りだ。その間、私あての電話が家にかかってくると、夫が「いま旅行中で家に居ません。
いつ帰ってくるか聞いてませんが1週間くらいで戻るでしょう。行き先は知りません」となる。
相手の反応はきまって「いいですねぇ!うらやましい」だそうな。そういう時でもほとんど
おみやげは買わない。ただし娘が小学生のとき、かわいい形の消しゴムを集めていたことが
あった。その時は小さな消しゴムセット(水族館で売ってた小さな魚のけしごむセット50円、
野菜セット250円など)を買って帰った。私はケチだからおみやげはその程度だ。


 ヴェネツィアよりパドヴァの方が安い
皮の手袋。迷ったけど買わないことにした(穴は修繕して使い、帰国するときにも捨てられず、結局
「貧しい人へ寄付」の箱へ入れることにした。この顛末は後ほど)。

私は物もちが良い。なくさないし、捨てられない。夫から「君それ、僕とつきあい始めた
ころから着ているよ」と言われた夏のワンピースは、よれよれになっているがまだ捨てられ
ずに着ている。こっちに持ってきたベレー帽は大学2年の写真に登場している。といっても
友達からきた年賀状が、12年前に作った干支の版画を摺り直したものだったりするから、私だけ
ではないのだ。こんなに物持ちが良いと、家の中に物がたまる。数年前に引越したとき、
荷物を半分くらい整理して身軽になった。狭い日本、物よりスペースがある方が贅沢なのだ。
それ以来、本当に必要なもの以外は買わないことにしている。

というわけで帰国が近づいたが、今回もお土産は準備していない。「みやげ話」ならこの
パドヴァ滞在記があるが、家族は読まない。自分用に写真を整理するつもりで書きはじめたが、
1年間続けられたのはいろんな人から励まされたから。新聞にも雑誌にも載らない文章を
(つまり頼まれなくて書いたものを)webにアップしたのは始めてだ。

とはいうものの、この1年間に買ったものは自分用のお土産になる。実用品で気に入ったものは
持ち帰る。それらを紹介するついでに、パドヴァに来た人のためのおみやげガイドを書くことに
する。


  

   

パドヴァの名物は、何といっても聖アントニオ。ごらんの通り大小さまざまな聖アント
ニオ・グッズがある。名物には違いないが日本に持ち帰っても喜ばれないこと確実。中世の
街並は見てもらうしかないし、世界遺産の植物園も派手さはない。冬ならケーキ屋さん独自の
チョコレートがいいかもしれない。(夏はチョコが店から消える)

スーパーや雑貨屋には安くておもしろいものが結構あるが、日本にないものは少ない。


 キッチン用品
これぞ地中海の台所のイメージ。セットで400円くらいだったか。大小いろいろある。


   

スーパーグッズでは、赤ちゃんのいる女性に瓶づめの離乳食が受けるかも。スーパーで2個
セットが2ユーロちょっと(330円)。いろいろあるが、絵にあるとおり、左の上段には牛、羊、
うさぎの肉のペーストが並んでいる。下段は魚。右の下段にあるチーズのペーストはイタリア的。
普通のチーズ、パルメザンチーズ、穴開きチーズがある。

はちみつ。各種のはちみつが小瓶に入ったかわいいセットが売っている。こちらでは
はちみつをクリスマスに贈る習慣があるそうだ。つぶの胡椒もいいかも。瓶にいろいろな
色の粒胡椒が入っていて、口の部分を回して砕いてかける。オリーブオイル1kgのビンも
安くてイタリア的だけど、重いし使わないからおみやげには不向き。イタリアワインは
日本で買うより安いけど重い。日本にない野菜はめずらしいけど持って帰れない。第一
本当においしい食料品は日本に輸入されている。



    ベネチアン・グラスの写真たて(緑の紙は私が入れた)

ヴェネツィアのみやげ物屋にずらっと並んでいるベネチアン・グラスも、安いものは中国製。
ムラーノ島の製品はものすごく高い。右は我が家の写真立てが壊れかかっているのでおみやげ


皮製品は安い(でも買わない)。さすがに歴史が違うと思うのは、レースのような皮のコートが
あったり(皮に細かな穴をあけてレース状にしてある)、布のような皮や皮のコートの範疇を
越えたデザインが高級店でない街のふつうの店で売っていること。デザインにはくわしくないから
何ともいえないが。 おばあちゃん達が街で着ているミンクのコートもみんな少しずつデザインが
違う。



    ストーンヘンジ(イギリス)で買ったキーホルダー


「カワイイ」というのは最近では国際的に通じる日本の概念らしいが、文房具もかわいいものは
日本製で、安いものは中国製。15年ほど前にドイツでかわいいグランドピアノの形をした
えんぴつけずりを買ったら日本製だった。欧米のものは文具も人形もかわいくない。キッチン
用品や家具類は規格が日本と違うので不便だし、日本の家の雰囲気にも合わないので、日本に
持ち帰って通用するものは多分ほとんどない。

    裏側

マドリッドの空港で待ち時間にみつけたスイス時計。

時計。私が今もっているのは男性用の実用品で、数字が大きいから講義中に残り時間を確かめて、
話を調節する時には便利なのだが、なにせ色気がない。友達がヴェネツィアングラスの入った
きれいな腕時計をしていたので、私も派手な時計が欲しかった。これは中が透けて裏まで見える
のが気にいっている。秒針の動きに合わせて歯車が動く。機械式ならもっと面白いのに。欠点は
秒針の音がうるさいこと、時刻がわかりにくいことだ(時計として致命的か)。


 スカーフ3枚

左上はワルシャワの博物館、右はラベンナの教会で買ったモザイク模様(5世紀)のスカーフ。
グラード(Grado)にある Basilica di sant eufemia の内部の模様をとっている。グラードも
モザイクで有名なところで行きたかった。左下はバザーで5ユーロ(約850円)だったが、日本人
のバザーだったから、もしかしてブランドものかもしれない。

   

ペギー・グッゲンハイム・コレクション(現代美術館)で買ったカンディンスキーの
スカーフ(1913年)とTシャツ(1929年)


なぜスカーフばかり買ったのかというと、手持ちのものがここへ来て全部同時に
ぼろぼろになったから。スカーフは防寒にもなるし衣類を包むのにも使うから
旅行で重宝する。ぼろぼろになったうちのひとつは大学院時代にアルバイトで
家庭教師をした時にもらったウンガロのスカーフで、これが唯一のブランド物だった。
あとのはいつ買ったか覚えがないが、スカーフの寿命は約30年とみた。だから今
これだけ買えば、残りの人生はこのセットでいけるはず。あとはコートとマフラーも
買ったが、すでに雨でよれよれ状態。

ちなみに日本からのお土産は何がいいか?たいていの研究所には日本から天文学者が
すでに行っているから、招かれた家に行くと扇子が飾ってあったり、お茶セットやら
風呂敷を出してきて見せてくれる。最近では漫画がいいかもしれない(エロと暴力はだめ)。
もちろん相手によるけど、ヨーロッパには漫画ファンが多い。めずらしさを狙って
日本の女性科学者を紹介する薄い冊子。食べ物で評判が良かったものでは、
野菜かりんとう、小豆の甘納豆(栗でもいいが高い)、芋けんぴ。これらは保存がきくが
壊れやすいのが欠点。

(2008.2.17)

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