ホーガンのSF「創造主(ライフメーカー)の掟」という小説にはジェノバが出てくる。 このSFの設定は、土星の衛星タイタンに異星人由来のロボット製造工場ができ、中世 そっくりのロボット社会が出現するというものなのだが、その中でパドヴァとジェノバと いうふうに名づけられた都市国家どうしが戦いをする場面がある。なぜかパドヴァが悪者に されているのだ。何で?パドヴァが悪者に?と、ちょっとむかっとして興味をもったのが、 ジェノバに行こうと思うはじまりだった。 ジェノバはイタリア文化の解説本にはあまり出てこない。歴史の本によると、ジェノバは 政治や文化には興味を示さず、もっぱら地中海の商業戦略に没頭したからとある。ともあれ 海運国家として栄えた。他の主な海運国家はアマルフィ、ピサ、ヴェネツィアだからこれで 全部行ったことになる。いちどでも行ったことがあると、本をよんでも実感がわき、なんと なく親しみがもてる。ヴェネツィアについての本を読むと、ヴェネツィアは14世紀にピサや アマルフィを蹴ちらしたあと、最後にのこった強敵のジェノバと戦って勝利し、絶頂期を 迎えたとある。まあパドヴァもヴェネツィアに蹴ちらされた(占領された)くちだから、 ヴェネツィアに思い入れがすぎる書き方にはちょっと抵抗がある。(私もすっかりパドヴァ人 になったなあ)。![]()
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左の写真のむこう岸に見える建物がジェノバ水族館。ヨーロッパ最大ということで入館者が たいへん多い。日曜日は子どもづれでぎっしり混んでいて、切符売場にも長い行列ができて いたが、月曜日はすいていた。面白い形やかわった習性の魚がたくさんいる。イルカの巨大 水槽が人気のようだ。イルカの動きも面白いが、水槽の前にやってくる子どもたちの反応を 見ているのも面白い。日本の水族館によくいるイシダイやイワシの群れは見かけなかった。
このへん世界遺産 右がロッソ宮(ロッソは赤という意味。今は美術館になっている)。左の白い建物はトゥルシ宮で 16世紀に建てられ、現在は市役所。パガニーニのバイオリンがある。左手前にビアンコ宮がある。 道路は意外に狭い。
フェラーリ広場 王宮
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17世紀に建てられた。
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この中庭にはころころと丸い白黒の石がぎっしり敷き詰めてあり、それが模様を作っている。
起伏の多いこの街は坂道が多く、長い階段が続く。だから買物はやはりこれが便利。車輪が階段対応に なっている。 フニコラーレ・ゼッカ・リーギ線(ケーブルカー)
上の終点駅に電車が入ってくる。2両編成。 ケーブルカーで山の上にいき、景色を見てすぐ降りてくる。ケーブルカーの起動力はふもとの 駅にあり、ケーブルを回している。車体の下にケーブルが2本みえるが、一本は昇りで他方は 下り。車体はどちらかにつかまって昇り降りする。発車は15分おきなので、待っている間に じっくり観察。ケーブルの動きが時々止まるのは駅についたらしい。ということは途中にある 2つの車両はいつも同時に駅について出発するわけだ。駅の間隔を正確に同じにしておかないと こうはいかない。
ずっと前、国際会議でサンフランシスコ(米国)に行ったとき、市電みたいなケーブルカーが 普通の道路を走っていた。道路にみぞが掘ってあり、その中でケーブルが回っている。 ケーブルはいつも動いていて止まらない。電車は走る時にケーブルをつかみ、止まる時に ケーブルを離すのだが、そのスイッチを入れたり切ったりするのはなんと人力で行う。長い 棒が床からななめに出ているのを、テコの原理で巨体の係員が全身の力をこめて倒したり もち上げたりすると、電車が動いたり止まったりするのだ。大変そうだが見ていてすごく 面白かった。ケーブルカーはたしか3系統あり、地下の動力システムがガラス越しにのぞ けるようになっていて、ケーブルがぶんぶん回っていた。
夫とケーブルカーのしくみについて車中であれこれ言い合ったが、昇りの終着駅でこれを見つけて 納得。車両のいる位置が光っている。予想通りケーブルカーは2つで、昇りと下りが同時に走って いる。下の方は駅が少ないので、上にいる列車が駅で止まるときには、下にいる列車は駅のない 場所で止まる。 上に着いて景色をみてすぐ下りる。ずっと単線だが、真中の駅でケーブルカーがすれ違う ときだけ複線になる。その時はケーブルは一本ずつになる。ケーブルは輪になったのが1本 だけだから、昇っていった列車が下る時にはどちら側で止まるのか、ふたりで興味しんしんで 見ていたら、ケーブルは行きと帰りで動く方向を変えるのだった。
下りの列車が真中の駅にさしかかる ケーブルは一本。
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むこうから昇りの列車が近づいてきて右側のホームに入る。そして同時に発車する。手前に 見えるのは下り列車の運転手さんの頭。そういえば、国際会議でこういう頭の人をあまり見かけ なくなった。若くて毛が薄くなった人はスキンヘッド(丸刈り)にするからだ。今回イタリアに 来たとき、若いポスドクに丸刈りが多いなと思ったが、流行というわけではないらしい。髪の 毛の色が薄いから短くしてしまえば目立たない。
ドッカーレ宮殿
サン・ロレンツォ大聖堂(12世紀) ここの宝物博物館のお宝は、「最後の晩餐」に使われたという緑のきれいなお皿。一部が欠けて いるのがもっともらしく?見える?キリストゆかりの品が何でも出てくるのに感心。キリストの 遺体をつつんだ布や十字架に使われた木はもちろん、東方三博士の頭蓋骨や聖母マリアの結婚 指輪までヨーロッパ中の教会に聖遺物として大切に保管されている。全部本物だったら、聖書の 物語の考古学研究がどれだけはかどることか。
内部
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正面玄関。綺麗な模様がついている。なお私の方がいつも写真映りが悪いのは、撮影者のテクの違いです。 コロンブスの生家
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中央の四角い建物 日本でいうコロンブスはイタリア語ではクリストフォロ・コロンボ(刑事コロンボはイタリア系)、 アメリカ到達のあと死ぬまでを過ごしたスペイン王国でのよび方ならクリストバル・コロン。 英語ならコルンブス。彼はジェノバで生まれた。家は織物業者で貧しかった。この小さな家に 両親と子ども5人が暮らし、商売のスペースもあるのでイタリアの水準ではかなり狭い。彼は 長男だった。この建物は18世紀に復元されたもの。コロンブスの銅像はプリンチペ駅前にある。 コロンブスの大それた計画は西まわりでアジアへ到達する新航路を開発するというもので、 ポルトガルとの交渉は挫折して、結局スペインで実現することになった。イサベル女王が 最終的に決心したのはアラゴン王の言葉があったからだが、彼を後押ししたのは故郷ジェ ノバの銀行の融資があったからだった。 アジアとの貿易が地中海経由で行われる限り、イタリアは貿易や金融でヨーロッパの優位に 立ち繁栄する。ジェノバやヴェネツィアの商船が地中海を行き来して、アジアのめずらしい 品物を持ち帰って、莫大な富をかせぐ。そしてフィレンツェやヴェネツィアが金融で栄える。 イタリアは経済大国になり、富に支えられて文化的にもヨーロッパで超一流国となる。ところが 貿易が大西洋ルートになると、イタリアの地理的な利点はなくなり、スペイン、ポルトガル、 その次はオランダ、イギリスというふうに大西洋に面した国が栄えて行く。だからイタリア 凋落のきっかけを作ったのがコロンブスだと言うこともできる。貿易ルートが変わっただけで なく、中南米を征服したスペインが金銀を大量に持ち込み、超インフレが起こったので、フィ レンツェやヴェネツィアの通貨は価値が下落して大損害。これでイタリア繁栄の2大要素だった 金融と貿易の両方ともが大打撃をうけて、イタリアは凋落していく。(本の受け売り) ソプラーナ門の塔(Torri di Porta Soprana)に登る。
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左にあるのは塔の上に出る階段の出口。塔の切れ目の先端が燕尾形になっているのは皇帝派の あかし。そういえば、パドヴァ天文台のもこんな形だった。なお、いつも特定の約1名が写って いるのは、建物の大きさのめやすにするため。
塔の上からみた眺め。
ジェノバの街は7階建ての建物が多い。通りは狭く、くねくね曲がっている。ここに写っている 2つの建物をよく見ると、どちらもかなり変な形だ。とうぜん部屋は四角ではないんだろうね。 レストラン
鏡の中のから見た世界
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左は前菜盛り合わせ。中央はかまあげしらすでおいしい。右はプリモピアットのミネストローネ。 けっこう野菜もはいっているが、大量のパスタにまぎれて目立たない。
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左の皿もプリモピアットで頼んだもの (Pansotti in salsa di noci) 中に野菜が入っている。 右はセコンドピアット(肉か魚料理)。注文をとる係の人に「この料理は何?」と聞いても、にこ にこして「これはおいしい」としか答えてくれない。「本日の魚」は何?と聞いたら実物を持って きて見せてくれたので注文した。二人で一人分注文したので、半身ずつお皿に盛ってくれた。 焼いてレモンをかけただけなのがおいしい。
(2008.3.11)
Copyright M. Kato 2008