もうすぐクリスマス -- 街の風景

12月はじめにパリから帰ったら、市庁舎の前には巨大なクリスマスツリーが出現していた。
これは公費で作ったのかな?(ユダヤ教徒から政教分離にしろと言われないか)夜と比べると
昼間の写真ではかざりの玉がやや少なめの感じだ。しかも手の届くところにはないのに注目。
この他には大学の近くでこれと同じくらいの高さの木に電球をつけてツリーに仕立ててあった。
(そういえば私の母校の立教では、12月になると銀杏の木にたくさん電灯がついて綺麗だった)

 昼間
(左)ライトアップされているのが市庁舎。(右)同じ場所の昼間。ツリーのむこうがカフェ・
ペドロツキ(パドヴァで最も古いカフェ。ワインや紅茶は5ユーロでおつまみが付くが食事は高い)


10年ほど前、国際会議でゾーネベルク(旧東ドイツ)へ行ったとき、確か12月始めだったと思う
が、歩道のわきに門松みたいな木がところどころにくくりつけられていた。街中クリスマス
ツリーであふれるらしい。まだ飾りはなかったが、早くつけると取られてしまうから、ぎりぎり
につけるとのことだった。国際会議の会場となった部屋には、天井まで届くクリスマスツリーが
あって、講演のために暗くなると、きらきら輝いた。同じくドイツのニュルンベルクでは12月に
なるとクリスマスの飾り(オーナメント)を売る店が市場にぎっしり並ぶ。観光客や買物客が
ぎっしりですごい。この市は年ごとに盛んになるそうだ(年々「悪く」なるとは、あるドイツ人
の天文学者のセリフだ)。それでドイツのクリスマスは私にとってツリーのイメージだ。

ドイツはプロテスタントが多いがイタリアはカソリックの国だから、街はさぞ華やかだろうと
期待していたのだが、ツリーはこの2箇所しかない。教会にもツリーはない。店のかざりつけ
もあまりも変わらないし、街はくすんだベージュ系で看板もネオンもなく、しかも店は音楽を
流したりしないから、ジングルベルなど全く聞こえない。街に音がないのはすごく落ち着ける
ので私は好きだが、全体的に意外と地味で寂しいクリスマスだと思った。

 パドヴァ(平日夜9時)   ヴェネツィア
左の窓から下がっているサンタさんは最近の流行

これもパリから帰ったら出現していたが、はじめて見た時、このしょぼい電灯を美しいと言う
べきか、わびしいと思うべきか迷ってしまった。パドヴァもヴェネツィアも、基本的に街は
暗いし、通行人のコートは黒が多いし、夕方4時半には暗くなってうっとおしいので、通りが
明るくなるのは嬉しいのだが、平日は人通りも少ないから、ベージュの単色の電灯がかえって
寂しい気もする。でもクリスマスの直前になって、やっと派手な夜店が毎日ならび、夜も買物客
でにぎやかになったら、ようやく綺麗だと思えるようになった。赤と緑のクリスマスカラーより
シックでいいかもしれない。単に目が慣れてきただけかもしれないが。

     

    ポルティコ(柱廊)にも装飾灯がついた>

そのうち道路にぎっしり店が出現するようになった。マフラーや手袋などの冬ものを売る店や、
ソーセージ屋、チーズ屋、クリスマスのおかしの店などが多い。冬は暗くてわびしいから、
うまくできている。そのうち店のショーウインドーもにぎやかになってきた。私が髪をカット
してもらった店でも、窓ぎわにプレゼーピオが出現し、馬小屋に小さな聖母子や羊飼いなどの
人形が並んでいる。要するにクリスマス直前にならないと準備しないらしい。昔ちょっと住んで
いたアメリカでは、感謝祭がおわるとすぐにクリスマスの準備に入ったような覚えがあるので、
パドヴァがいつまでも静かなのであれ?と思ったのだ(日本は早くから騒がしいし)。

    

    
(左)お菓子屋、(中)クリスマス用品の屋台、(右)お茶屋(紅茶など各種の茶葉を売る店)の
デコレーション


 パン屋さんのツリーにはパンのオーナメント。
1週間前になって、これに赤いリボンが加わって派手になった。


ラジョーネ宮の下には肉屋さんが並ぶ。ここはヨーロッパ最古の商業センターだったそうだ。
午前中はいつもお客が並んでいて混んでいるが、午後になると早々に閉まる。ちなみにイタリア
の公務員の勤務時間は、週36時間で月から土まで1日6時間。アジアゴ天文台の秘書さんは
公務員だから、朝7時半ころにきて午後1時半には帰ってしまう。用事がある時には午前中に
行かないとつかまえそこなう。出勤が朝早いのは観測あけの天文学者に便利なためにかと思って
いたら、イタリアの公務員の標準勤務時間らしい。一般企業の労働時間は週40時間で土日は
休み。ここの人が公務員かどうかは知らないが、朝8時前には店を開けているから午後2時には
閉めて一日の労働は終り、ゆっくりお昼を食べられる。スーパーでも肉は売っているが、ここの
方が種類は豊富だから、肉を買う時には午前中にここに来る。

夜の肉屋街。1軒だけ魚屋がある。

    
肉屋街の角の店。パドヴァでこの商店街が飾り付けがいちばん派手だった。魚を買う時は、
ショーケースに並んでいる魚のどれかを指定して重さを測ってもらい、値段を書いたレシート
をもらって、左のレジでお金を払う。



だいぶ寒くなった。ショーウィンドーの中は黒っぽい服ばかり。街を行く人のコートも厚く
なり、色も黒が多い。コートは日本と同じようなダウンやウールのコートが多いが、たまに
毛皮のコートもみかける。毛皮は圧倒的にミンクが多く、着ているのは決まっておばあさんだ。
衿だけでなく全部ミンク。普通のオーソドックスなデザインのもあれば、裾がひらひらして
いる(毛皮をよぶんに使ってフリルになっている)のとか、ロングドレス用の足首まである
フルレングスも見た。昔は暖かくて軽いダウンのコートがなかったから、すごく寒い地方
では毛皮が必需品。ひとつしか持てないのなら、値段は張るがミンクにすれば、どんな場合にも
着ていかれる。代々その家の女性が大事に着て、ひいおばあちゃんからおばあちゃんへと受け
継がれる、そういうものかなと私は見たが、本当のところはどうだろう?暖かいコートがミンク
1つだけと思う理由は、着ている人がおしゃれのためだけではなく、ふだんの外出にも気やすく
着ている風に見えるからだ。ミンクの上に安っぽい毛糸のマフラーをぐるぐる巻いている
おばあさんや、普段着が下から見えて運動靴の人もいた。暖かいから毛皮を着る、それだけで
ミンクを着ている感じがする。

      

左の写真の左側はクリスマスの典型的なケーキ。上側はアーモンドが少しちらばっていて
甘さ控え目で、中はシフォンケーキみたいに軽くてあっさりしている。生クリームは使わない。
その右の白バラで飾ってあるものはプレゼント用のセット。ワインやチョコレートと組み合わせ
て、驚くほど高額のセットもある。右の赤い丸いのはチョコレート。大小のものが街にあふれて
いる。

クリスマス直前で、市場にも野菜を買いにきたミンクのおばあさんがあふれている。おばあさん
たちが出会ってミンクどうしがほほをつけて挨拶している光景はめずらしい。もっとも昔は
市場に買物に行くのは社交の一種でもあったので、正装してでかけたとか。だからミンクの
コートで七面鳥を買いにきても不思議はないのだろう。

      
大量に並ぶクリスマス用の肉。この季節に限らず、トリ肉や七面長は頭つきで売っている。右の
鶏肉(大きい種類)はスープにするそうだ。中央の数字は、順番まちで並ぶ人の番号。


  歩道を掃除する清掃車
ポルティコ(柱廊)の下の2段高くなった歩道を掃除する清掃車。私が写真を撮っていたら、
車を止めてくれた。

卒業記念
中央の青いビニールの袋を頭にかぶって仮装している女性が卒業生。ベンチの上に立って自分
について書かれたパピアを読み上げている。ミンクのコートのおばあさんも見物人。

大学の卒業風景(詳しくは3月の項を見てね)。この寒空に今ごろ卒業してどうする?と心配に
なる。イタリアの大学は学部によって3年から5年とさまざまで、卒業の時期もまちまち。
日本のようにいっせいに卒業して就職するわけではない。コネ社会イタリアでは就職もだいたい
コネできまるから、卒業と同時に就職できるのはラッキーだと学生が言っていた。イタリアは
大企業が少なく、大部分が家族経営の中小企業で、学歴や良い成績が就職に直結するわけでは
ないから、学生も勉強にあまり熱が入らないようだ。(イタリアの企業は95%が従業員数10名未満
の零細企業で労働者の47%がそこに勤める。この数字は周囲の国の2倍。学力調査でイタリアの
小中学生の平均は先進国中最低ランク、大卒以上の割合も11%と低い。まったく外国語を話せない
人の割合はイタリアで6割、ドイツでは3割。どおりでイタリアで英語が通じないわけだ。)

(2007.12.20)

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Copyright M. Kato 2007