ワルシャワでの暮らし -- その1

さて8月はワルシャワにあるコペルニクス天文センターに2週間滞在した。今までの
滞在経験から涼しいというより寒いことを期待してきたのに、思ったより蒸し暑い。
到着したのは夜だったが24時間受け付けでは英語が通じる。宿舎と私らが使う
研究室を案内してもらい、鍵を4つうけとる。翌朝には大学院生がきて、コンピュー
タを使うためのユーザーIDをとってくれた。(効率的でイタリアとは大違いだが
これが普通のはず)

      
暖房(スチーム)はカーテンと窓の間にある。夏だからわからないが、すきま風が入らない
ための工夫かも。よく見るとレースのカーテンの裾は切りっぱなし。洗濯しないのだろうか?

宿舎は同じ建物の中にある。台所つきの部屋を予約しておいたら、写真の通り
ベッドのある部屋が2つ、キッチン、シャワーとトイレ、何と居間まである。
居間にはコペルニクスの大きなタペストリーがかかっていた。日本でいう2LKで
とてもリッチな宿舎だ。お皿や台所の椅子からみて、ここは3人まで泊まれる
ようになっている(3人目は居間のソファを引き出してベッドにする)。
各部屋にはネットワーク接続のためのコンセントがあり、イーサネットケーブルも
装備されている。イタリアから来ると、この用意の良さに感動する。


 客員用研究室に滞在


ワルシャワは夫は2回目、私は3回目なので、見物に行くこともせず、しばらくは
研究室にこもっていた。朝起きて食事をして研究室に行き、お昼を食べにいって
すぐ帰ってきて研究室に戻り、宿舎に戻って夕食をつくって食べ、また研究室に
戻り、宿舎に帰るのは夜中という具合だ。何しろ同じ建物の中に研究室と宿舎が
あるので、パソコンの電源をいれたまま、電源コードを引き抜いて、そのまま持ち
帰っても大丈夫。息抜きは食料品の買物に行くことと、Web で新聞記事を読むくらい。
歩いていける距離にはレストランもケーキ屋もない。徒歩500mと700mのところに酒屋と
スーパーがあるだけ。散歩するにも景色がつまらない。アジアゴは景色がきれいで
よかったなあと思い出して散歩に気がのらなくなると、てきめん運動不足になった。


昼食
  

コペルニクスセンターのカンテーン(食堂)は改装工事中だったので、昼食はすぐ裏に
あるスペースセンターのカンテーンへ食べに行く。ポーランドは物価が安く、食料品は
だいだい日本の4割くらい(イタリアもリラの時は安かったが、ユーロになってから
すごく物価が上がった)。上の写真は左がポテトのパンケーキ風のものに、キノコなどが
入ったとろりとしたスープがかかったもの。(プラツキ・ジェムニャツァーネ。)
右はパスタ入りトマトスープ。つけあわせのコールスローのようなキャベツサラダが
おわんに山盛りになっているのがちらっと見える。メニューは日変りで変化がある。
メニューの文字が全く読めないし、たとえ読めても何の料理だかわからないので、適当に
決めるか、他の人が食べているのを指さして、これくださいと言うしかない。最後のころ
には、係の人が実物をもってきて見せてくれるようになった。


米入りトマトスープ   麦入り野菜スープ(小さく切ったじゃがいも入り)

   
(左)鳥肉のフリッター。つけあわせのポテトがどっさり。(右)白い豆とソーセージの煮物。
これも大量に盛られてきた。どちらも大量で一人で食べるのは大変。


ワルシャワに来てすぐ天文学者の家に招かれた。ワルシャワ郊外でかなりはずれた地域に
あるとはいえ、日本の感覚では、住宅地というよりは、森の中に住宅が点在する感じに
近い。むかし築80年の家を買っておいたのを、外見は変えずに内側の構造だけを自分好みに
改造したばかりだそうで、自分でデザインしたという台所もすてきだった。何といっても
広い。一階だけで日本の我が「マンション」の2倍はある。ダイニングキッチンは巨大だし、
自分用のバスルームとは別に客用のバスルームが2つある。二階は壁をなくして大きな
部屋にしたそうで、そこで寝転がってDVDの映画を見るのだそうだ。庭も広くて木が繁って
いる。自分の庭で育てた植物の実から作ったワインも出してくれた。ナチュラル派の生活
スタイルを確立しているので、ゆとりとも言えるが、生活費がかからないようにしている
とも言える。この地域も今では値上がりしてとても買えないと言っていた。

さてその夜のメインディッシュはフランス風のパイだった。彼女はベジタリアンなので
お客に出す料理にも肉は使わない。薄味で素材の味が生きていてとてもおいしかった
(ポーランドの野菜や肉はイタリアよりおいしいようだ)。天文学者の家に招かれて食べる
料理は、レストランの食事よりおいしいという「法則」はここでも成り立つ。


 フランス風パイ。
生地がピザより薄くてパリパリでおいしい。上にのっているのはズッキーニの花、
マッシュルーム、チーズ、緑のは何だか忘れた野菜。この生地は最近は冷凍したのを
売っているそうだ。パドバに帰って冷凍食品売場で探したが、みつからなかった


慣れない土地で生活すると疲れてくるので、健康には食事が大切。長期間になると私たち
にはやっぱりごはんが一番だ。私はパンも好きなのだが日本のようなおいしいパンはこちら
にはない。イギリスやアジアゴからパドバに帰った時は、すぐごはんを炊いて海苔としょうゆ
で食べた(パドバでは冷凍のなっとうも手にはいるので、それも時々食べる)。ここでは
炊飯器がないので、鍋でごはんを炊いたが、同じお米なのにいまいちおいしくできない。
何しろ電気コンロなので、火力調整がほとんどできないのだ。強火にしても火力が出るのは
3分後という調子。アメリカにいたときもそうだったなあと思い出す。

宿舎にこもっていると、気晴らしは料理だけだ。こういう状況では、料理も何もできない
男は足手まとい以外の何者でもないが、幸いにして夫は私と同じくらい料理ができる。
スーパーに行くと、知らない材料を見てふたりであれこれ考えたり、ミルクのラベルから
どっちが普通の牛乳でどっちが加工乳かを推理したり(書いてある字が読めないから)、
これも二人とも料理をするから楽しいのだ。材料も調理器具も十分ではない中で、二人で
悩みつつ材料を買うのは結構楽しい。ワルシャワには2週間いるので、念のためにお米と
しょうゆはパドバから持ってきたが、どのスーパーにもしょうゆ、のり、お米が置いて
あった。野菜はブダペストより種類が多く、イタリアよりは青菜類が少ない。北で寒いから
青菜が少ないのはうなずけるが、かえってイタリアの野菜よりおいしい。そのうえ、白菜が
あるのが非常に嬉しい(パドバでは手にはいらない)。

   
スーパーでみつけたさばの薫製。油がのっていてワインに良く合っておいしい。ポーランド産
のワインはおいしくない(気候がぶどうには寒すぎる)と言われてチリ産を呑んだ。ピクルスも
おいしい。右はありあわせの和風スープ?ズッキーニを煮て即席わかめスープで味付けした
もの。その他には骨つきあばら肉を中華香料としょうゆで煮たり、白菜のベーコン炒め、
ソーセージと野菜のスープなどを作った。


この調子で研究所に10日も籠っていたら、さすがに退屈してきたので、街の中心部に
出た。コペルニクス天文センターは街の中心からバスで20分くらいの場所なのに、周囲は
家がまばらで、日本の感覚では街とは言えない場所にある。帰る時に飛行機で上から
見たら、ワルシャワの街はかなり大きく広がっており、木が非常に多くて、大きな一軒家が
木々の中に点在しているのだった。いっぽうブダペストは、飛行機から見るとパドバと同じ
ように建物が密集していて、木がほとんどない。


 ワルシャワ中心部

    コペルニクスの像(手に天球儀)

後ろの建物はポーランド科学アカデミー。



ワルシャワ大学
 正門

門の左右の柱に埋め込まれている女神像は、右は頭に兜をかぶっているので、多分アテナ
だと思う(戦いの女神で知恵と技術全般を管轄する)。イギリスに行った時、大英博物館で
ギリシャから奪ってきたパルテノン神殿の彫刻を見た。そこにあったアテナと同じ顔を
している。あぁイギリスへ行ったかいがありました(イギリスへは国際会議で発表する
ために行ったはずと突っ込みの声)。とすると左側はその母親のメティスか?


    よく見ると望遠鏡がある


ごらんの通りの美しいキャンパスで、建物ごとに違うギリシア風の彫刻がついている。格調
高いのは門だけではなくキャンパス全体だったのだ。もとは宮殿か貴族の館だったらしい。
教室がどんな感じなのか見たいところだが、戦後の再建だから中は質素かも。そのうち建物の
1つに望遠鏡を発見!ここはコペルニクスの国ですからね。建物をみれば、ギリシャからつな
がる宇宙観がわかるというもの。自然科学の王道はここにあり。この大学では哲学や自然科学
の授業がやりやすいだろうなあ。この建物は宇宙・地学関係の学科かと思ったが、違うよう
だった(字が読めないので断言できない)。

 

遠くて見えないが、この建物の入り口の脇にもソクラテスとプラトンの彫像がついている。
このキャンパスには昔は音楽学校があり、ショパンも在学していたそうだ。キャンパスの
奥の方にはショパン一家が済んだ宮殿もあるが、閉まっていた(掲示が読めないので公開して
いるのかも不明)。


 国立博物館の庭にある彫刻

ここにはポーランドやヨーロッパの絵画が非常にたくさん展示されている。宗教画や近代画
の他に、あまり見るチャンスのない共産主義政権時代の芸術もあった。労働者の生活や意識を
テーマにしているもので、店や外で働く姿とか普通の人の生活場面を描いた絵など、新鮮で
めずらしかった。そういえば、今の普通のおばさんが店で働いている絵画はあまり見たことが
ない。芸術は日常感覚を記憶させる役割もあったはず。絵に詳しくないから何とも言えない
けど。

(2007.8.25)

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