お客に呼んだり呼ばれたり--どんな料理を出すか


さて、夕食にイタリア人を招く時には、どんな料理を出すかが問題だ。

なすは私の得意料理なのだが、こちらのなすはおいしくない。大きくて
丸いのは論外、細長い形のものは日本の倍の長さがあり、皮が恐ろしく
硬い。皮を食べられるくらいにすると中身がぐちゃぐちゃになり、中身が
ちょうど良いくらいだと皮が硬すぎる。いろいろ試したあげく、オーブンで
18分まる焼きにして皮をむき、しょうゆを少したらして焼きナスにする
のが一番マシだとわかった。街で見かけるなす料理は、ピザやパニーノに
はさんだり、レストランの前菜ではオーブンで焼いたのをオリーブオイルと
塩で食べたりだが、特においしいわけではない。今まで食べた中で一番
おいしかったなす料理は、招かれた家でごちそうになった時のプリモ
ピアットで、炒めてニョッキと合わせたものだった。つまり料理に適した
小さななすを、どこで買えるかを知らないと、おいしい料理はできないのだ。
野菜は店だけでなく季節によって変わるから、1年がんばってもイタリア
料理ではイタリア人にとても太刀打ちできない。かといって、なすそのもの
が日本のものと違うので、日本の家庭料理もおいしいものは作れないのだ。



なすを焼くタイミングは難しい。皮が硬いので外からは焼き具合の見当が
つかず、同時に4本入れても、なすにより出来上がりの時間がちがうし、
オーブンの場所にもよる。生焼けのものはスープにする。


日本でお客様を招待する時の私の得意料理は牛テール(中華風)。そして
夫の得意料理は牛タン(舌)のシチューだった。牛タンはパドバで売っている
肉屋をみつけたが、皮つきのままなので、皮をむくのが大変でまだ作って
いない(日本では皮をむいたのを買っていた)。

牛テールは骨髄が含まれるので、ここ数年は作っていなかった。イタリアでも
BSE(狂牛病)はあったが、イギリスとは違って数頭しか病気が出なかったこと、
それも3年前から出ていないこと、それからパドバで買う牛肉はパドバ近郊で
とれたもので輸入肉ではないことを聞き出して、牛テール料理を再開することに
した。日本の牛肉と比べると少し硬めだが、味は良い。イタリアでもあまり
牛テールを料理しないようなので、中華料理だと言ってメインに出せば、
ものめずらしさで一度はいける。(ただし同じ客を2度目に招く時に何を
出すかは考え中)

ぶた肉は硬くておいしくない。鳥肉は味が良く、塩胡椒で焼いただけのものが
一番おいしいが、それでは簡単すぎて出すにはちょっと気がひける。そういう
訳で、今のところお客に出せる料理は、冷製ポタージュスープ(小麦粉を炒めて
作る)、牛テール中華風(醤油味)、鳥肉のみそ焼き、ほうれん草おひたし、
焼きナス、茶玉子、おしるこ(小豆を煮る)、カレーライス(ルーは日本のもの)、
チャーハン、つけ合わせとして野菜をゆでたものくらいだ。

  
茶玉子。中国人の父から教わった中国の家庭料理で、子どもの頃、冬になると
よく作った。お茶とニッケ、サンショウ、塩を入れて長いこと煮る。アメリカで
出会った私と同年代の中国人天文学者たちは、みな小さいころ毎日これを食べたと
言っていた。右はオックステール(牛のしっぽ)。中華香料と醤油で煮る。日本の牛より
少し硬い

チャーハンは女性に人気がある。ねぎ(のようなもの)と小さく切ったベーコン、
玉子だけのチャーハンだが、レシピをよく聞かれる。よく炒めて玉子をぱらぱらに
したものより、そのちょっと手前で火から下ろした方が評判が良いようだ。
リゾットに似ているから抵抗がないのだろう。こちらの玉子は殻がもろい
くせに、黄身の味が濃いから、かなりくせのあるチャーハンなのだけど。

日本の文化はイタリアでも興味をもたれているので、せっかくだから日本の
普通の家庭料理も作って出したい。でも肉の薄切りという概念がここには
ないので、国民的料理である焼肉や、肉野菜いためは作れない。そういえば
アメリカにも薄切りの肉がなかった。肉といえばブロックのまま焼くか煮るか、
またはステーキで焼くだけで、料理のメニューが著しく限られる。私と娘が
当時住んでいた街(イリノイ州)に新しいスーパーができて、そこに行けば
生の肉を薄くスライスしてくれる、つまり肉の薄切りが手にはいるとわかった
ときには、そこに住んでいる日本人の奥さんがみな買いに行ったっけ。

ここでは人を食事に招待する時には、食べられないものがあるかを必ず聞く。
ベジタリアンも多いので、料理が限定されるからだ。ベジタリアンといっても
肉はだめだが魚はOKだとか、魚もだめだが玉子やチーズはOKとか、大きな魚は
食べるが小さいのはだめとか、人によって違う。ヒンズー教などの宗教的な
理由で肉は食べないというのなら理解できるが、魚の大きさによって違うのは
私には理解不能だ。

ちなみに去年日本の我が家にベジタリアンを招待した時には、大皿に野菜料理を
たくさんつくった。和食は野菜料理のメニューがたくさんあるので助かるが
動物性のだしを使っていいのかわからない。かつおぶしや乾燥えびが使えない
場合には、和食といえどもかなりメニューが限定される。黙って使えばわからない
わよと言ってくれる友人もいたが、良心がとがめる。家庭料理としてカレーライス
も外国人にはめずらしいかもしれないが、市販のルーには牛肉エキスが入って
いるし、インド人にカレーライスを出す勇気はなかった。

結局、その時、夫とふたりで知恵をしぼったメニューは、高野どうふ(添付のだし
には、かつおだしが含まれるので使わない)、ほうれん草おひたし(のり+ごま)、
さつまいものレモン煮、なす2種(焼きなす、なすの煮物:乾燥えびの代わりに
しょうがとこんぶ出汁)、かぼちゃ(ゆでただけ)、カリフラワーと人参のサラダ
(洋風ドレッシング味)、れんこんのきんぴら、茶玉子(中華家庭料理)、まぜごはん等。

      
レンジの下は戸棚とオーブンと食器洗い器。お客さんが来て大量に洗いものを
する時には便利だが、イタリアでもよくないメーカーのものだそうで、使い
にくい。

うちは当然のことだが夫も料理する。イタリア人天文学者の家によばれた時の
観察では、夫婦どちらも料理ができる家が多いようだ。毎日の料理をもっぱら
旦那さんの方がやっている家もあった。全く料理ができない旦那さんは私の年代でも
小数派とみた。

イタリア式なら1度の夕食に出す品数は少ないから、いまの少ないメニューでも
2回は招待できる。目下の悩みは、日本通で味にうるさいイタリア人夫婦を
招待するときのメニューである。こちらで手にはいる材料で、おいしい和食を
作るのは至難の技。かといって味にうるさいから、めずらしさで勝負するわけには
いかない。ただいま夫とふたりで研究中である。

(2007.6.5)

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