お客に呼んだり呼ばれたり--訪問編

アパートに落ち着き、パドバにも慣れてくると、夕食に招待されたり、
こちらが招待したりと、だんだん週末が忙しくなってきた。日本のように
どこかのレストランで食べるということはしない。気軽に自宅に招く。

ここでは夕食の時間は8時が普通なので、家に帰りシャワーをあびて、
ちょっとおしゃれして行く。といっても天文学者のことだから、誰も
ネクタイはしない。女性はサマーセーターにちょっとネックレスをつける
だけだが、昼間はみんな Tシャツ程度なので、それだけでおしゃれをした
感じになる。

イタリアの家はどこも広い。一軒屋にしろアパートにしろ、日本の2倍は
あるのではないかと思う。街の建物を観察すると、平均的なアパートでも
一戸の大きさが日本よりかなり大きい。招かれた家でも、どこもまず天井が
高く、リビングキッチンが広い。他の部屋もゆとりがある。そういえば
パドバの我がアパートに来たお客が、部屋を見て「バスルームはたった1つ
しかないの?」と聞いたなあ。(あとでわかったのだが、彼女は自分専用の
バスルームを使っているのだった。その家でお客が使うバスルームは6畳
くらいあった)

    

左:ベネト地方の料理を準備しているキッチン。この日は春の料理アスパラガス。
   他のゲストがベジタリアンだったので、メインは白と緑のアスパラガスだった。
中:ちゃっかりリゾットの作り方を習っているところ。
右:パンはこれで焼いて出す。典型的なパンは小麦粉と水とイーストだけから
    作るので、塩分も油分もなくて淡白な味。パンを食べる時バターはつけない。


そりゃパドバでは家の値段は安いけど、イタリアはヨーロッパでも平均賃金の
安い国だと不平を聞く。でも家のローンは日本に比べてそれほど重くなさそう
だ(退職金を前借りして家を買った人もいる)。ここでは家の価格は年数が
経っても下がらないらしい。そりゃ築700年の建物に比べれば築30年なんて
何ともないでしょうとも。

パドバは人口21万の田舎都市だから東京と比べるのは不公平。そういえば、東京の
我が家(マンション)に田舎から義妹夫婦が来たときも、開口一番『狭いね!』
だった。日本でも農家はもちろん天井が高くて、ものすご〜く広い。でも
あれでも東京の我が家は、あの建物の中では一番広かったんですよぉ。
都会の家が狭くて田舎の家が広いのはあたりまえ。でもローマで招かれた
アパートだって巨大だったから、イタリアの平均的な家は日本の平均的な家
よりかなり広いのだと思う。

招かれる時は夫婦単位なので、同席した夫婦の組合せを観察するのは面白い。
天文学者の夫婦でも、天文学者とそれ以外の人との組合せでも、長年つれそった
夫婦は雰囲気がよく似ている。キャラクターが違っても、なるほど絶妙の組合せ
だなと、見ていて面白い。さらに私の見るところ、太り具合も夫婦でたいてい
同じ(反省)。

招かれた方はちょっと何か持って行く。たいていケーキかアイスクリームか
ワイン、鉢植え。街でも週末には大きな鉢植えを持ってドレスアップした
カップルをよくみかける。私らは日本から持って来た箱根細工をおみやげにする。


箱根細工



日本のおみやげとしてまず思いつくのは、扇子やちりめんの風呂敷だが、あまりに
ありふれているので、一人でも日本人の知合いがいれば、持っている可能性が高い。
それに日本に来たことがあれば買ったかもしれない。小さく軽くて日本でもあまり
買えないものをというわけで、イタリアにくる前に箱根に行って、箱根細工の箱を
たくさん買ってきた。日本の伝統工芸の技術を見せられるし、みんなで開けようと
するから楽しめる。特に子どもがいる家では喜んでくれる。招かれるたびに持って
行くので、パドバは他の都市と比べて、箱根細工の存在密度が異常に高いはずだ。

招かれた家に行くと、最初にみんなでソファーに座り、ドリンク(食前用のワインや
ジュースなど)を飲みながらおしゃべりする。簡単なおつまみ1〜2種((小さく
切って焼いたパンやクラッカー、ポテトチップスに何かをつけて食べる:アボガドの
すりおろしとか、辛くてどろどろしたもの等)。しばらくして食卓に移動して食事用の
ワインか水を飲みながら、プリモピアット(パスタ類かリゾット)を食べる。それが
終ると、セコンドピアット(魚のグリルとか肉料理、ソーセージ等)とつけあわせ
(野菜サラダ、ズッキーニやトマトの肉詰めなど1〜2種類)が出てくる。(パンは
最初から出ている)それが済むと果物(季節のくだもの2〜3種を小さく切ったもの)、
もし誰かがケーキを持ってくるとそれが出る。食後にデザートワインが出ることも
あるが、コーヒーは出ない。

日本の和食コースは品数が多いので、夕食に招くのは大変だという思いがあるが
イタリアのコースは皿数が少なく、お客だからといって特別な料理を作るわけでは
ないので、招くのは思ったより簡単だ。料理をお皿に大量に盛られて、たくさん
食べなさい、といわれる家もあるが、そうでない家もある。私の観察では、夫婦が
太めだと前者、細めだと後者のことが多い。食事が終ってもつまみ食いをして
いるのは、きまって太めの旦那さんだ。

家に招かれるといろいろな話ができて楽しいのはもちろんだが、相手の性格も
わかって面白い。意外にきまじめとか、想像通りアバウトな性格とか。趣味で
作った作品を見せてもらい感心することもある。特に直接の研究仲間の場合には、
性格を知っておくと、論文を読んだ時以上の情報が得られる。何かに凝る人は、
他の事にも凝りやすいから、観測装置に詳しかったりデータ解析がしつこかったり
するからだ。居間にインターネットがあれば、私も自分のWeb page にある手芸の
作品を見せる。縫い目が細かいでしょ。だから私の数値計算は信用できますよ、
とまでは言わないけど。

                     注1アパートとは日本でいう「マンション」のことです。
                     注2:会話は英語です。子どもも大学生だと英語が上手。
(2007.5.31)

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Copyright M. Kato 2007