イタリアの「赤」

赤はイタリアの気候風土によく似合う。

パドバは家も道路も煉瓦でできているから、基本的に茶系の街だ。窓わくや
雨戸は木製で、緑色に塗られている。東京のように派手なネオンサインはなく、
店の看板もひっそりしている。落ち着いた雰囲気でとてもシック、東京に
慣れた目で見れば、地味でくすんだ印象がある。そんな街で、たまに原色の
赤い色がアクセントになっている。たとえばこの銀行。

銀行 私の研究室
ATM(現金の引き出し専用)がポストのように真っ赤。それに銀行の入口も、
赤くふちどりされている。そういえば私の研究室も窓わくが真っ赤(右の写真)。
このデザインは学校やオフィスなどでよく使われているようだ。

これまで「赤」は私の生活から縁遠い色だった。自宅は落ち着いたアース
カラーだし、服は地味な色ばかりだし、家の中に派手な赤は存在しなかった。
思い出せば、私の日本の研究室の椅子も赤かったけど、渋いくすんだ色で、
ここの感覚からみると、あれは赤とは言えない。日本では真っ赤な色は特別に
目立つ色なのだ。ばりばり官僚の私の友人は、真っ赤なスーツを勝負服に
している。

この街では、赤はごく普通の色である。通りがかりの事務所に真っ赤な椅子が
置いてあるし、道を行くおばあさんが、真っ赤なジャケットを普通に着ている。
淡い髪の色によく似合っていて自然な風景だ。向こうにいる太ったおじさんの
くたびれたポロシャツも真っ赤だ。きれいな原色の赤は元気が出る。他の色
使いも日本とは違う。


クッションはいちばん後ろの赤の無地がアパート備え付けのもので、手前の3つは買ったもの

上の写真は、我が家の夕食にお招きした夫婦からいただいた観葉植物。真っ赤に
ラッピングされている。アパートに備え付けのクッションや炊事用手袋、レモン
しぼり器、冷蔵庫の中の野菜を入れるタッパのふたも真っ赤な色。赤が好き
でも嫌いでも、「原色の赤」を家から追い出すのはむつかしい。逆に言えば、
濁った色のものは意識して探さないと買えないので、自然と原色を買うこと
になる。こうして、いくつか赤い色がそろって、私の台所は、あっという間に
明るいイタリア的雰囲気になったのであった。

 

右のレモンしぼり器でオレンジジュースを作る。オレンジは中が赤で、味が濃くて
おいしい。日本でも最近はレストランにあるが、すごく高い。左はイタリア人
から借りたリネン類の束に入っていたキッチン用ふきん。その上は大きな
とうがらし。


原色の赤は日本では人気はいまいちだ。東京にあるイタリア文化会館が真っ赤な
色に塗りなおされた時、「周囲の景色と合わない」「派手すぎる」と議論が
起こった。日本の街は、ネオンや看板があふれた雑多な雰囲気だから、それに
慣れた目でみると、建物の外側を原色の赤にするのは派手で下品に映る。イタリ
アのシックな街並みに慣れていると、緑の中の赤い建物はきれいに見える。
まあ平安神宮のようなものだと思えばいいのかも。これらの批判に対するイタリア
側のコメントは「きれいな色だと思います」だったが、この街に住んでいると、
そう実感する。

(2007.4.18)

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Copyright M. Kato 2007