(第3回)

いつの間にか天文学者

(イラストも筆者)

 私は小さいころからピアノを習っていた。幼稚園の頃から、好きで練習をせがむ子供
だったらしい。両親は「女の子にも手に職を」という考えだったので、音大にすすませ
ようと考えた。子供を育てながら、自分の家で近所の子供にピアノを教えれば収入にな
ると思ったのだ。それで音楽教育にはずいぶんお金をかけてくれた。

 ところが私は中学生になると、果たして自分は音楽が好きなのか、よくわからなくなっ
ってしまった。ピアノの先生という職業には、明るい未来が感じとれなかった。中高時
代ずっと悩んだあげく、私は音大へは行かないことにきめた。両親はとてもがっかりし
たが、ともかく私は理数系が好きだったので、「女の子なのに物理なんて」となげく母
の声をふりきって、立教大学の理学部物理学科を選んだ。

 大学で勉強した物理学はとても面白く、自然現象の裏にひそむ原理を解明する面白さ
にとりつかれ、そのまま大学院に行きたいと思うようになった。立教大学の理論物理は、
素粒子か天体物理だけだったので、自分の性格を考えて、天体物理、つまり天文学を選
んだ。いまでも学生に多い悩みは、どの進路を選ぶべきか決められないというものだが、
私の場合には不思議と進路がしぼられた。たとえばスポーツで、同じ球技でも、サッカー
とラグビー、野球、卓球はみな違い、どれが自分むきか、やっているうちにわかるのと
同じである。

このようにして、私はいつの間にか天文学者になっていた。小さいころ天体観測をした
経験もないし、無条件で星にロマンを感じたりもしない。星の中でどのようなことがお
こっているのかを理論的にきれいに解明できたとき、はじめて感動するタイプである。
それでも天文学の研究はとても面白い。プロというものはそういうものだと思っている。


しんぶん赤旗2000年5月19日掲載
Copyright (文とイラストも) Mariko. Kato 2000