執筆裏話
                                加藤万里子

なんで改訂するの?
天文学は進歩が早く、つぎつぎに新しいことがわかってきます。あたらしい
探査機や高性能の望遠鏡ができるたびに、教科書のなかの写真は古くなり、
記述も違ってきてしまいます。数年ごとに写真を入れ換えるなどの小改訂が
必要でした。改訂版の原稿を書いていた去年の夏の日に、ふと新聞を見たら
一面トップで、探査機が火星に着陸。あーこれも改訂版にいれなくては。。。
という具合。いちど本を書けばそれで安心していられる文科系の先生はいいな、
なんて書きながら思っていました。


さし絵
この本にはマンガのさし絵がたくさんありますが、かなりのものは私が書きました。
外国人にも評判がよいのが、図2・12の「月もりんごも落ちている」のうさぎと
図3・10の「現代版織り姫ひこ星物語」です。
  今回の新版のため、私がイラストレーターとして描いたものには m のサインが
入っています。焼き鳥が描けなくて1200 円も出して鳥の丸焼きを買ってきたりして
苦労しました。ぐずぐずスケッチしていたので、いつまでも夕食にならなくて、家族
から非難をあびました。自画像も描けといわれて描いたのが151ページのものですが、
美人すぎる、若すぎる(つまり似ていない)と言われます。
  あ、144ページのイラストは手塚治虫さんの火の鳥からです。本当は宇宙人が
出て来るページをまるごと出したかったけれど、セリフがあると著作権が難しく、
1カットしか掲載許可がもらえませんでした。


教科書事情
この本は12年前に書いたものを改訂したものです。出版当時は天文学の
教科書といえば、定年退官になったおとしよりの書いた教科書ばかりで、
式がそっけなく出て来て、天体写真も少なく、面白みに欠けるものばかりでした。
私はジョークや面白い絵、きれいな写真が盛り沢山の天文学の教科書がほしくて
自分で書いたのです。このへんの教科書事情は、天文学会誌 (天文月報 77(1984)48,
87(1994)313)に書いた書評を見て下さい。


点字の図
巻末に親子銀河の点字の図があります。たった1枚ですけど、啓蒙のつもりで
入れました。今、バリアフリー版を作っていますが、そのおためし用です。
この図が盛り上がっているため、製本や紙の裁断に苦労しました。
要するに普通の製本工程にかからず、1枚1枚手でカットし、本にのりで貼る
ことになったのです。なにしろ、始めてのことなので、とまどうことばかりでした。