キャンパス生活の援助と組織上の問題点
                             和田功男 (慶応大学日吉教務課長)

1。受け入れ組織
具体的にどんな対応が必要かは障害の程度と種類によるので柔軟な対応が必要となる。
日吉キャンパスでは特別な受け入れ組織がないため、教務課が対応することに
なった。新入生にとって4月は履修申告がもっとも重要なので、教務課が対応する
のは自然な流れであったと考える。ただし多面的な受け入れを考えたときには、
事前にしっかりした受け入れ組織を作っておく必要があろう。


2。生活面での支援 
キャンパス内を一人で行動できるための支援は必須であり、しかも入学直後から
必要となる。

<キャンパス地図>
キャンパスを自由に歩きまわるためには、キャンパスの地理や校舎の
位置を記憶する必要がある。そのために地図を OHP にコピーして、道路、
建物、道順に穴をあけたものを作った。実際に歩きながらそれを触って
もらい、建物の名称等を口頭で説明した。

<歩行訓練>
構内を安全に移動できるようになるまで、道順や障害物の位置を把握する
ための歩行訓練が必要である。始めは出身高校の先生が下宿から大学までの
歩行訓練をし、その後大学教務課にバトンタッチした。時期は入学が決まった
3月下旬から一週間程度であった。しかしいざ新学期が始まると、なれない
新入生で校舎があふれかえっているため、白杖をついていても、つき飛ばさ
れたり押されたりして歩行は容易ではない。それで4月はできる限りつき
そうようにした。始めて一人暮らしを始めたので、学校外でも苦労が絶えな
かったようだ。4月5月は柱や看板に激突するためか、顔に生傷が絶えなかった。

<教科書の購入>
生協に協力を依頼して時間外に対応をしてもらった。

<自動販売機>
生協および納入業者の許可を得て、本人が自動販売機に品物名と料金の
点字シールを張った。

<昼食>
4月は学生食堂が非常に込んでいて、一人で食事をするのは困難な
状況である。そのためボランティア活動の学生団体サークル(ライチュース会)と
スチューデント・カウンセラーの学生に、新学期のうちは昼食をいっしょに
取ってくれるようお願いした。(現在は本人はライチュース会に所属している)

<雨・雪>
雨の時はすべりやすいが、大学として特別な措置はとっていない。
傘をさして晴眼者と同じように行動している。1月の大雪の時はちょうど
試験があり遅くなったため、帰宅路は試験監督の教務課員がつきそったが、
大雪で電車が止まり、本人の下宿へ帰れない状況であった。


3。履修科目を決める

4月始めに、本人と希望するすべての科目の担当者との面談を設定し、
履修の可否を相談した。


4。学生ボランティア

<ボランティア組織>
ボランティアの学生サークルをはじめとして、クラスメイトや担当教員など
が呼びかけた結果、ボランティアがかなり集まった。6月頃、学生ボラン
ティアとの懇談会を開き協力の要請をした。30人程集まった。

<学生ボランティアの人件費>
視覚障害者への学習援助として、チューター費を出せるようになった。
空き時間にチューターとしていっしょに勉強した学生やテープ録音をした
学生に対し、チューターをした学生にアルバイト料を出す(800円/時間)。
朗読希望時間は本人と相談の上、1年目は週5コマ分(9カ月)とした。塾内
各部所の予算申請は入学確定の前なので、前もって障害者の入学に対応した
措置をとることは難しい。したがって新入生に対しては予算面でもフレキシブルな
対応が必要である。

チューターの人数は支払い面から見ると、1月末現在で毎週定期的に支払っている
者が5人、散発的な者が5人程度である。その他にチューターをしているのに
料金を請求しない学生も数名いる。

<部屋> 
朗読ボランティアが朗読をするための部屋として、学習指導室、小教室1つ、
および図書館の資料室を用意し、出勤票のサインで管理している。


5。図書館の利用

蔵書には点字図書がないため、本人の申請があれば点字図書館から借りること
で対応する。CD-ROM なら音声出力できるので対応が可能。その他の利用は
他の学生と同じ条件。ボランティアの学生と共に利用していることが多いようで
あるが、図書館職員の方の配慮もありスムーズに利用できている。

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このように問題点をまとめてみましたが、ひとくちに障害者といっても
実際には種類と程度によって必要な対策は違って
くるでしょう。新学期にはじめて教務課が対応をせまられた時には、そういった
知識も心構えもなかったように思います。今から思えば、きちんと
した知識があればちょっとした気遣いですむ程度のことでも、何も
予備知識がないといったいどんな対応をとったらよいのか混沌としてしまいます。
適切な補助をして自立を促すことが最も求められていることですが、かといって
過保護あるいはサービス過剰になっては自立を妨げることにもなりますから、
なかなか難しいところです。適切な気くばりができることは、窓口になる組織のみに
必要なことではなく、キャンパス構成員の全員に求められていることでしょう。

実際に視覚障害者といっしょに歩いてみると、点字ブロックや教室番号のシール
が実際の役にはあまり立たないことがわかります。日吉の校舎には教室の入口の
わきに教室番号の点字シールが貼ってあります。シールの位置
は、教室入口の左にある場合もあれば右にある場合もあり、視覚障害者の立場に
なっていないことがわかります。つまり点字シールをみつけても、教室の入口が
どこにあるかわからない。晴眼者の目からみてちゃんと対応ができていると思っても、
必ずしもそうとは限らないということが実感されます。おそらくこれは一事が万事で
しょう。

大学に入学する障害者は困難をはねのける覚悟と能力があって入ってくるわけ
ですが、だからといって大学側がそれを期待してはいけないと思います。障害者が
大学の不備に慣れて努力して合わせてくれるのを
期待するのではなく、受け入れる大学側が障害者のことを理解して適切な対応を
とれるようになることが、大事なことと考えます。

今回の視覚障害者の受け入れ方については、視覚障害教育の専門家である経済学部の
中野泰志先生に助言をいただいたことが大きな支えとなりました。幸運にも中野先生は
97年春に慶応大学に着任されたばかりでした。中野先生がおられなかったら、自信
をもって障害者と接することができなかったと思います。