- 日時:2018年3月25日(日)13時〜16時(開場12時30分)
- 場所:慶應義塾大学三田キャンパス第1校舎3階131-B教室 https://www.keio.ac.jp/ja/maps/mita.html
(キャンパスマップの9番の建物)
参加:無料(申込み不要,先着150名様まで)
プログラム
基調報告:根本 彰(慶應義塾大学文学部教授)
「図書館における行政情報提供と行政支援について」 資料1 資料2
講演:豊田高広(愛知県田原市図書館長)
「それは行政支援ではありません 〜図書館現場から見えてきたこと〜」 資料
コメント:伊藤丈晃(東京都小平市企画政策部秘書広報課) 資料
「情報利用者を意識して〜職員の情報収集と広報の情報提供〜」
<休憩>
司会:松本直樹(慶應義塾大学文学部准教授)
実施報告
この集会は、2017年度に慶應義塾大学の学事振興資金によって根本が実施した図書館の行政支援研究の一環で行ったものである。
その概要について報告しておきたい。当日の参加者は、70名であった。首都圏を中心に関東が多かったが、遠くは宮崎県、愛媛県からの参加もあり、図書館関係者に加えて、自治体行政や教育委員会、市民団体、ネット企業等々多様な広がりがあった。
基調報告では、図書館は公文書と出版物の間にあるグレイな領域の行政資料を扱うものとされてきたが、それをどのレベルで行うかは各図書館に委ねられていて、明確な基準はないこと、他方、行政支援サービスの必要性が文部科学省の「図書館の設置および運営の望ましい基準」などでも言われているが、実際に行政機構に明確に位置付けられて行われている例は多くないこと、日野市の職員調査では職位の高い職員ほど市政図書室の利用が活発なことや新聞切り抜きサービスがよく利用されていることなどが報告された。オープンガバメントの推進が行政の透明性を掲げて叫ばれたが、図書館をそこに位置づけられるためには、多くの課題を克服する必要があることがわかる。
講演では、愛知県田原市で行われている課題解決支援サービスの一環で行われている行政支援サービスは、許諾新聞の記事見出データベースを提供し、レファレンス、複写、貸し出し、イベント・展示を実施していることが報告された。とくに、市役所職員に月1回、移動図書館による出前サービスを行っているし、庁舎内のイントラネット掲示板での情報提供も行っている。さらに、議会図書室を活性化することを同時に行い効果を挙げている。こうした行政支援を行うことが地域の課題解決につながると述べられた。
コメンテータからは、職員の情報収集行動を探るために簡単な聞き取り調査を行い、求められているのがニュース、経済・法律・統計、先進事例に集約されること、媒体としては行政資料、専門雑誌、論文報告書、新聞・業界新聞である、またインターネットからの入手が多いが、直接の問合せや購入も多いことなどが報告された。プル型だけでなく、ネットを利用した新しいプッシュ型の情報利用も増えている。広報はプッシュ型の情報提供であり、ネットを使ったものを含めて時節を先取りした情報を提供する方向に変化しつつある。図書館については、予算や人材との関係からどの範囲のものまで対応するのか優先順位をつけることが提案された。
このあと、休憩に入ったところで参加者に質問や意見を書いていただき、その一部に対して登壇者が応えるセッションを実施した。全体としては、多岐にわたる範囲のコメントが寄せられたので、回答したのはごく一部にすぎない。
このワークショップは、おそらくは図書館とオープンガバメントの関係について議論した初めての集会であったものと思われる。明確な方向付けが示されたわけでなく、むしろ議論の出発点で多数の課題を目に見えるかたちで示すことができたことに意義があったものと考えられる。
以下に、質問・意見を要約したものを示すことにより、次の議論に引き継ぐための素材としたい。(文責 根本 彰)
当日寄せられた質問・意見
○行政情報・オープンデータ
- NDLのWARPを各館に配信可能なアーカイブズとし、各図書館のOPACに登録し、それぞれの図書館がメタデータを補うのはどうか。
- 行政情報と地域情報と組み合わせて分析したり、問題の掘り起こしまですることを図書館セクターが担う必要があるのでは(質の高いレファレンス、調査研究)。
- 公文書館が設置されることが稀な小規模自治体では、非現用公文書(保存期間切れの公文書)の保存に対して図書館はどうすべきか(例 市町村合併のプロセスに関わる決裁文書や関連資料)。
- 行政情報だけでなく地域情報全体がデジタルアーカイブとして、地域のMLA全体の課題として議論されているところがある(長野、新潟、京都など)。詳しくは、原田健一・水島久光編『手と足と眼と耳:地域アーカイブをめぐる実践と研究』を参照。
- 行政情報のオープンデータについて、行政と図書館との重複をどのように調整するか、また、利用規約は共通なのか。
- 基礎自治体の行政資料がPDF化した結果、紙のものが県立図書館に送ってこなくなった。しかしこれをプリントして提供することの意義はあるのか。
- オープンデータについて県内では情報政策課中心で図書館の関心が薄い。
- オープンガバメントの透明性について、図書館がどこまでの資料を収集するのかは関係各課とのやりとり次第。何らかの基準が必要。
- 四半世紀前に調布市図書館に民間委託案が出てシンポジウムがあり、そこで一橋大学の堀部政男氏が図書館が情報公開の窓口になるのも一つの在り方と発言した。これについてはどうか。
- すでに法律・制度・政策に関する情報がPDF情報で大量に公表されていて、市民にとってアクセス可能なのに、実際にはアクセスできていない状況がある。図書館はどう関わっていくのか。
- オープンデータとしての統計情報となると統計ソフトの使用法までの支援を図書館はするのか。
- 市町村単位での種々の情報を提供するRESAS(地域経済分析システム)がある。こういうものとの関係で個々の図書館は何をすればよいのか。
○行政支援
- 「議会連携」まで実施するとなると直営館にはなじみやすく、指定管理者制度の下では難しいのではないか。
- 「議会支援サービス申請用紙」にはどんな内容を書き、どのように議会に届くようになっているのか。どの程度利用があるのか。
- 「市役所出前サービス」に興味を感じた。パブリックコメントのサービスを具体的にどうしているか。市役所の反応は。
- 「市役所出前サービス」は情報セキュリティのために情報検索が使えなくなった状況の代替になるのか。BM用PCは検索しやすいのか。
- 広報活動を行う上で、図書館との連携や、図書館への調査依頼はあるのか。
- 広報を担当するのに図書館サービスを活かせた点は何か。逆に図書館に戻る機会があるとすれば、やってみたいことはあるか。
- 市のWebへのアクセス状況を市の政策担当者と共有し、政策立案に活かすようなことは行われているのか。
- 小平市図書館での行政支援サービスは職員からはどう見えているのか。
- 日野の職員調査が興味深かった。当館では収集基準の改訂を進めていて、シンポを踏まえたものにしたい。
- 日野市役所調査の自由記述欄で具体的にどういうときに役だったというような回答はあったか。
- 日野市の調査の公開の予定はあるのか。
- 議案書には個人情報が含まれるといった理由で図書館には納本せず、情報公開請求の上での提供を行っていることがある。行政情報収集の根拠に「図書館法」や「望ましい基準」の理念だけでは弱い。
- 新規サービスの取組に消極的な行政組織の体質に対して、行政支援を行うことが可能なのかどうか。市民・市職員のニーズの把握をどうするのか。
- 図書館員の意識として「自立的に地域課題を設定する」ことが根付いていない。指定管理館の場合や直営でも非正規化が進むなかで、誰がリーダーシップをとるのか。
- 自治体職員のなかで論文を書いたり研修の講師をする人に対して、図書館の役割をアピールしたり効用を説くことが効果があるのではないか。
- どのような具体的なレファレンス事例があるのか知りたい。
- 「許諾済み新聞の記事見出しサービスDB」についての具体的な説明と利用状況を知りたい。以前のものから採録新聞の変化はあったか。
- 行政庁内各所への情報配信に対して、著作権法上の問題があるとの話しがあったが、具体的にどういう問題があるのか。
○オープンガバメント
- 住民がまちづくりにオープンデータを利用できるように加工したり、見える形にすることが課題になる。図書館員がデータサイエンティストの役割を果たすこと。
- 行政側も情報公開をすることの必要性は感じているが何をどこまで事前開示するか等の判断は迷う。図書館が情報提供を行うとすればどの部分を担うべきか。
- オープンガバメントを議論するなら、まず図書館そのものの予算や意思決定等を開示し、次に職員が著作物や成果物をオープンにし、その後行政資料の収集提供という順番になるのでは。
○その他
- 行政職員の立場から市図書館の使い勝手や利活用の現状が分かれば教えてほしい。
- 行政職員がリサーチマインド、情報リテラシーをもつようにするにはどうすればよいのか。
- 公文書管理法は、2007年の年金記録問題を契機として自民党内閣の福田総理が指示することから始まったので、リベラルが動いてというのは違うのではないか。
- 続編をお願いします。
- 行政の継続性が問われるときに、図書館が長期的視点をもってサービスする「知の拠点」の立場を明確にすることは重要である。
- 議会図書館の活性化について、審議に図書館が積極的に関わり、根拠に基づいた政策論議が行われれば、図書館の存在意義が高まる。
- 行政資料室の公共図書館分館は限界があり、行政主体の設置に図書館が運営する方が実態に即しているのでは。
- 当市の図書館は、指定管理から直営に戻す動きになっている。行政職員にしかできないサービスを考える上で参考になった。