地学実習に関するアンケート調査
松本
直記・坪田 幸政(慶應義塾高等学校)
1.
地学実習に関するアンケート
慶應高校では、1年を対象に3単位の必修地学を履修させている。このコースでは、実験・観察などの実習をカリキュラムの中心に据えて、地学全般の分野を学習している。
96
年度と97年度の最後の授業において、このコースで行った実習に関するアンケート調査を行った。内容は、それぞれの実習の「興味度」(実習は面白かったか)、及び「学習効果」(実習で行ったことにより学習効果が上がったか)をそれぞれ、5段階で自己評価させた。96年度の被験者は166名、97年度も166名である。それぞれの年度に行った実習一覧を表1に示す。
No. |
実習名 |
96 |
97 |
分野 |
キーワード |
||||
1 |
楕円体の作図 |
○ |
○ |
地質 |
計算 |
作図 |
|||
2 |
ジオイド分布の作図 |
○ |
地質 |
作図 |
|||||
3 |
ボルダ振り子実験 |
○ |
○ |
地質 |
計算 |
道具 |
|||
4 |
地磁気の測定 |
○ |
○ |
地質 |
道具 |
||||
5 |
フーコー振り子の実験 |
○ |
○ |
地質 |
計算 |
作図 |
道具 |
||
6 |
地殻構造の探求 |
○ |
○ |
地質 |
計算 |
作図 |
|||
7 |
地球内部構造の探求 |
○ |
地質 |
計算 |
作図 |
||||
8 |
地球の内部構造(コンピュータ) |
○ |
○ |
地質 |
コンピュータ |
計算 |
作図 |
||
9 |
震源の位置の決定 |
○ |
○ |
地質 |
計算 |
作図 |
|||
10 |
地震のMとEの関係 |
○ |
○ |
地質 |
計算 |
作図 |
|||
11 |
地震のMとNの関係 |
○ |
○ |
地質 |
計算 |
作図 |
|||
12 |
地震のMとN(コンピュータ) |
○ |
地質 |
コンピュータ |
計算 |
作図 |
|||
13 |
珪酸塩モデルの作成 |
○ |
地質 |
道具 |
|||||
14 |
偏光板と方解石による実習 |
○ |
○ |
地質 |
観察 |
道具 |
|||
15 |
岩石標本の観察 |
○ |
○ |
地質 |
観察 |
||||
16 |
岩石プレパラートのスケッチ |
○ |
○ |
地質 |
観察 |
道具 |
|||
17 |
地質図関係の実習 |
○ |
○ |
地質 |
計算 |
作図 |
|||
18 |
化石標本のスケッチ |
○ |
○ |
地質 |
観察 |
||||
19 |
地形の立体視 |
○ |
地質 |
観察 |
道具 |
||||
20 |
放射性元素 |
○ |
○ |
地質 |
計算 |
作図 |
道具 |
||
21 |
大気圧に関する実験 |
○ |
○ |
気象 |
道具 |
||||
22 |
日射量の測定 |
○ |
○ |
気象 |
計算 |
作図 |
道具 |
||
23 |
教室の露点測定 |
○ |
○ |
気象 |
計算 |
作図 |
道具 |
||
24 |
天気図の作図 |
○ |
○ |
気象 |
作図 |
||||
25 |
高層天気図の作図 |
○ |
気象 |
作図 |
|||||
26 |
ハイザーグラフの作図 |
○ |
気象 |
コンピュータ |
作図 |
||||
27 |
パソコン計測によるボイルシャルルの法則 |
○ |
気象 |
コンピュータ |
作図 |
道具 |
|||
28 |
天球儀による座標系の実習 |
○ |
○ |
天文 |
道具 |
||||
29 |
惑星の視運動の作図 |
○ |
○ |
天文 |
作図 |
||||
30 |
火星軌道の作図 |
○ |
○ |
天文 |
計算 |
作図 |
|||
31 |
スペクトルの観察 |
○ |
○ |
天文 |
観察 |
道具 |
|||
32 |
HR図の作図 |
○ |
○ |
天文 |
作図 |
||||
33 |
HB彗星軌道モデルの制作 |
○ |
天文 |
それぞれの回答の分布を図1に示す。ほぼ正規分布に近い分布をしており、データの信頼性はあるものとする。また、
96年度と97年度について分布の差は特に認められないので、以降の解析は96年度と97年度のデータを合計したもので行った。
2.
分野別の解析実施した実習を、地質・気象・天文の分野に分け、解析を行った(表
1参照)。ここで留意すべきは、これらの集計結果は各分野そのものの興味度や学習効果ではなく、各分野の実習に対しての数値である。分野別の興味度については、図2のように気象分野でより興味があるという結果になった。調査を行った筆者らの専門分野にも関係しているのかもしれないが、生徒が行った実習の感想などから推察するに、気象分野が高校段階のカリキュラムでは実生活との接点があり興味を持ちやすいといったことが考えられる。天文分野と地質分野は非常に良く似た分布になった。学習効果に関して、天文について最も「学習効果がなかった」(
1,2)と答えたものが多かった。高等学校の教科書的な天文学に関する実習に対しては興味を持ちにくく、学習の達成感も得られにくいのではなかろうか。3.
キーワード別の解析実習にはさまざまな要因があるが、「コンピュータ」「観察」「計算」「作図」「道具」のキーワードを付与し、それぞれのキーワードについて解析を行った(表
1参照)。コンピュータを使った実習は、表計算ソフトを作表支援・作図支援・解析支援ツールとして利用するものや、各種センサーを用いて測定器として利用するものを行った。コンピュータの利用について、生徒の興味度は非常に高いことが見て取れる(図4)。
多くの生徒はコンピュータを使うことで興味を喚起され、学習効果も、「コンピュータ以外」の実習のものと比較すると、
5,4と答えたものが多く2,1と答えた者が少ない。「観察」は、岩石や化石などのスケッチや方解石と偏光板による複屈折の理解など、観察した結果を絵に表したり、言葉で表現するものを選んだ。「観察」についての興味度は、
3(どちらでもない)と答えたものが非常に少なく、5,1と答えたものが他のカテゴリーに比較して多い。観察に関しては、好き嫌いが明瞭に分かれたといえよう。作業に計算を伴うものを「計算」のカテゴリーとした。興味度は計算の要素が入ることにより低下するが、学習効果がなかったとするものは少ない。
「作図」に関しては、「作図以外」と比較して興味度が低いことがわかる。面倒な作図はやや敬遠されているのだろう。ただ、学習効果を見ると、学習効果がなかったと答えたものは「作図以外」のそれより少なく、作図によって学習効果の認識が高まったことを示している。
実験に伏角計や実体鏡、スペクトル管など特別な実験道具を使用するものについて、「道具」のカテゴリーとした。「道具」に関しては「道具以外」の分布と比較すると、実験道具の使用が生徒の興味度を喚起していることがわかる。
4.
高い「興味度」「学習効果」を示した実習回答
4,5が多かったものを表2に示す。これらの実習は決して容易な内容ではない。しかし生徒の印象に強く残っていることを示している。生徒はいろいろなかたちの実体験を伴った実習を通し、概念や理解を修得したときに、高い興味や達成感を示すのではなかろうか。