HOUソフトを利用した気象分野の授業

−ひまわり画像の解析を題材として−

○松本直記

MATSUMOTO naoki

慶應義塾高等学校

      地学教育,気象教育,ひまわり画像,生徒実習,演習ソフト,コンピュータ

 

1 はじめに

 

現行の学習指導要領では、生徒の探究活動とコンピュータの利用が奨励されている。コンピュータの普及は徐々に進んでいるので、できるならばコンピュータを使った探求活動として生徒一人一人に使わせたい。その場合生徒の人数分のソフトを購入する必要があるが、限られた目的のためのソフトを生徒数分買うことは現実的ではないだろう。

慶應高校では、1984年からひまわり画像を受信し、授業に活用している。ひまわり画像には可視画像と赤外線画像があり、それぞれ雲の反射率(厚さ)、表面温度(雲頂高度)を表すが、一般的には夜間でも観測できる赤外線画像のみが使われており、本来の意味合いは理解されていない。本校では掲示板に毎朝9時の可視・赤外のひまわり画像を掲示している。生徒が2枚の画像を見比べることで雲の性状を知ることができるよう、両画像の特徴を理解させる実習を行っている。いままで紙媒体による提示やFM-TOWNSによる自作プログラムを使った探求活動を開発した(松本,1991)が一般性のあるものではないだろう。

 

2 HOUソフトを利用した生徒実習

 

HOUHands-On Universe)とは米国で発足したパソコンとネットワークを用いた高校生のための科学教育プログラムである。主に天体画像と画像処理ソフトを使って課題を進め、その過程で天文学、物理学、数学、コンピュータリテラシなどが身に付くよう工夫されている(縣・戎崎,1997)。HOUソフトとワークブックを利用するためにはHOUが認定する団体が主催するワークショップに規定時間以上参加しHOU Teacherの認定を受ける必要がある。日本ではJAHOUJapanese Association for HOU)がワークショップを行っている( http://atlas.riken.go.jp/ jahou )。その際、年会費として3万円が必要となる。

HOUソフトには様々な機能があるが、特に任意の直線を指定し、その輝度分布をグラフ表示する機能(slice機能)に注目した。

同時刻の赤外線画像と可視光線画像を用意し同じ場所の輝度分布の違いを比較することにより、雲の性状や立体的な構造を理解することができる。

ケンウッドコア社のひまわり画像専用のソフトにも同様の機能があるが、生徒実習として行う場合、膨大なソフト代が必要になる。HOUソフトはHOU Teacherの実践に関しては必要数分のコピーが認められており、かなり安価にコンピュータを使った生徒実習が可能となる。生徒実習の手順を以下に示す。

  1. HOUソフトを起動し、同時刻の赤外・可視画像を開く。
  2. 両画面を見比べながら天気図用紙に「上層の薄い雲」「背が高く厚い雲」「低層の雲」を区別し、色別に塗り分ける。その際、不明瞭な場合はslice機能を使って数値を確認する。
  3. 同時刻のレーダーアメダス合成図( 例えばhttp://www.aix.or.jp/imoc/ )を提示し、降水域を斜線で記入させる。
  4. 降水がある場所の雲の特徴を考察する。

表面温度や反射率の様子を実際に数値で確認することができるため作業は非常に的確に行われた。

 

3 おわりに

 

ひまわりの赤外・可視の画像は慶應高校地学教室のホームページ( http://www.hc.keio.ac.jp/earth )などで得ることができる。インターネットを利用することでほぼ現状に近いデータを用いて実習を行うことができ、生徒の動機付けを高めることができる。またHOUソフトには複数の画像を演算合成する機能もあるのでこの機能を活かした実習も考えていきたい。

「ひまわり画像」は気象庁の静止気象衛星ひまわりが観測した画像です。

<参考文献>

縣秀彦・戎崎俊一(1997:パソコン・ネットワークを用いた総合的科学教育カリキュラムの実践::教育工学関連学協会連合第5回全国大会講演論文集,605-606.

飯田睦治郎・渡辺和夫(1982:気象衛星ひまわりの四季:山と渓谷社.

松本直記(1991:必修地学におけるコンピュータ教育:慶應義塾高等学校紀要22.

文部省(1989:高等学校学習指導要領:大蔵省印刷局.