プレスリリース 9月5日 14時
大学生を対象とした自然科学の用語調査 -- 10年前、20年前と比較して

慶應大学 (日吉) 天文学教室 加藤万里子、日吉物理学教室 小林 宏充


発表:2012年9月19日-- 21日 日本天文学会、 および 2013年3月(予定)慶應義塾大学 日吉紀要 自然科学

論文の要約

慶應義塾大学文学部、経済学部、商学部、法学部の1,2年生および理工学部の1年生を 対象に、科学用語のアンケート調査をおこなった。 実施時期は2012年4月、回収数は文系学部 409、理工学部 415である。 科学用語36の知識と興味度のほか物理・科学コンプレックスの有無などを調査し、 10年前と20年前の調査結果との比較を行った。学生が科学の最新知識を得る情報源は テレビ、インターネット、新聞の順であり、10年前と比べて新聞とインターネットの順番が 逆転した。文系理系ともに10年前に比べて自然科学、特に天文学と物理学を中心とする 用語の知識度が大幅に上がり、また興味も広く強くなったことがわかる。

はじめに

大学で自然科学の講義や実験を担当している者にとって、学生がどの程度の知識をもってい るか、興味はどの程度あるのかを、自分の担当科目に限らず広く把握しておくことは大切で ある。長い年月のうちには、いつのまにか初等中等教育のカリキュラムが変わり、大学の 入試科目も増減し、世の動きにつれて学生の気質や興味もしだいに変わっていく。 筆者の一部を含むグループは、1992年と2002年に日吉キャンパスの学生を対象として、 自然科学に対する学生の意識調査と科学用語の認知度の調査を行った。今年2012年はそれから ちょうど10年たったので、学生の意識や興味が社会の変化とともに更にどのように 変化したのかを再調査した。

調査方法

調査は2012年4月に慶應義塾大学日吉キャンパスの学生を対象におこなった。 アンケート用紙はA4の紙1枚に裏表印刷、回答用紙は試験の答案用紙(マークシート)を 代用し、同時に配布した。マークシートは学生部にある採点システムを使って読み取った。
表1には文系学部および理工学部の学門うちわけを示した。理工学部では、学生が各学科に所属する
のは2年生からであり、1年生はいろいろな学科志望の学生がおおざっぱに集まった
「学門」で区分けされている。学門1は物理系、学門2は管理工学と数理科学、学門3 は
化学系、学門4 は機械工学とシステムデザイン、学門5 は電子工学、情報工学、システム
デザインが中心である。


表1 調査人数
-------------------------------------
文系学部   計409 (うち女性138)
  文学部    55 (36)
  経済学部   96 (32)
  商学部    183 (44)
  法学部    75 (26)
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理工学部 計415 (うち女性81)
 学門 1  77  (10)
 学門 2  60  (12)
 学門 3  101  (32)
 学門 4  104  (19)
 学門 5  73   (8)
------------------------------------
総計    824  (219)


文系学部の回答を見る上で留意すべき点は、アンケートを実施した科目が
必修ではなく、選択必修科目であるため、ここでの回答が文系学部の学生の平均的回答と
一致するとは限らないこと、たとえば物理が大嫌いという学生は比較的少ないであろう
ことを念頭におく必要がある。



結果のまとめ

--- 図 1 ----

最新の科学知識を何から得るか

図1は「あなたは科学の最新知識を何で知りますか(複数回答)」という質問への回答で ある。もっとも多いのがテレビ(文系67%、理工66%)で、次にインターネット(文系57%、 理工60%)、新聞(文系39%、理工40%)、ニュートン(月刊のビジュアル科学誌)と続く。 ニュートン以外の月刊科学雑誌(パリティ、科学、日経サイエンスなど)はほとんど 読まれていない。これらは高校生には少し内容が難しいこともあるだろう。 学部別にみると、新聞やインターネット、テレビと回答した割合は文系理工の違いに よらずほとんど同じであるが、ニュートンや一般向け啓蒙書の割合は、理工学部が高い。 文系では、23名がニュートンから知識を得ると答えているが、 10年前(2002年春調査:文献3)と比較すると、新聞(文系理工どちらも61%)が減り、 インターネット(文系25%、理工40%)が増えた。インターネットは10年前には文系が理工より 15ポイントも低かったが、今回の調査ではほぼ同じになった。これはインターネットが 文系理系にかかわらず広く高校生に普及し、パソコンのほかにスマートフォンなどでも 情報が手にはいるようになったからだと思われる。 科学雑誌の購読者は10年前と比較して理工学部でかなり増えた。ここで注意しなければ ならないことは、統計のとり方の違いである。10年前の調査は質問項目が「パリティ」 「科学」「ニュートン」「その他の月刊誌」に分かれていて「日済サイエンス」がなかったため、 図1では「パリティ」と「科学」を合わせたものを図示している。そのため10年前の数字には「 日経サイエンス」が「その他の月刊誌」に入っている。 今回は質問項目を「パリティ、科学、日経サイエンス」と「その他の科学月刊誌」とに 分けた。一般に、項目が明記されていないものは回答が少なくなる傾向があるため、10年前 の調査では月刊誌の割合が少なめに出ていた可能性はある。また割合が非常に少ない (=回答者数が少ない)ため、母集団の選択によるばらつきが大きいとも考えられる。 したがっていちがいに10年前と今回を比較して、雑誌が増えたと言うことはできないだろう。 また、文系・理工ともに一般向け啓蒙書の割合が10年前と比較して減っている。 一般向け啓蒙書はブルーバックスなどの書物が想定されるが、 10年前に比べてそのような少し専門的な知識もインターネットで手軽に 得られるようになったことが大きいのではないかと推測される。 --- 図 2 ----

新聞の科学欄を読む割合

次に「あなたは新聞の科学欄を読みますか?(インターネットによる新聞社のWeb ページも 含む)」という質問をした。ただし 1992年のアンケート文には「インターネットを含む」と いう但し書きはない(当時インターネットは学生にはほとんど普及していなかった)。回答は 「よく読む」「たまに読む」「ほとんど読まない」「まったく読まない」の 中から選択してもらった。図2にそれらの割合を示す。 まず言えることは、文系も理工も新聞の科学欄を読まない学生が過半数だと いうことである。「全く読まない」と「ほとんど読まない」を合わせると、 文系で 59.9%, 理工で 53.5% になる。この割合は20年前(文系57.0%、理工49.2%)から 多少増えた。「全く読まない」が微増しているのは、もしかすると、新聞を購読する 家庭が減り、自宅通学生が新聞紙を手にする機会が減った、あるいは下宿生が増えたため 新聞を購読していない可能性もある。しかし、過半数の学生が ほとんどまたは全く読まないと回答しているので、これは家庭の状況というよりは、 新聞の科学記事を読むという習慣がまったくないと解釈できるだろう。 一方、積極的によく読む学生は、20年前に比べて文系も理工もその割合が 大きく減っているのが特徴である。図 1 からも分かるように、科学知識を新聞から 積極的に得るのではなく、インターネットを介して得る方が手軽で、ピンポイントで 自分の興味ある事柄について調べることができることが大きいのではないかと思われる。

知っている科学用語と興味のある科学用語

学生の知識の範囲を調べるため、「あなたは、次の言葉を聞いたことがありますか」 という設問で、36の用語についてあるなしをチェックしてもらった。 図3にあるように、ある科学用語を知っている割合は、文系も理工もおおむね同じような 傾向を示しているが、「刷り込み」を除けば、理工の方が認知率が高い。 文系学部では、よく知られている用語(認知率が90%以上)は、ビッグバン、ブラックホール、 国際宇宙ステーション、DNA、遺伝子くみかえ、体内時計、ダイオキシン、メルトダウン、 地球温暖化、オゾンホールの10個であり、 理工学部では、それに加えて一般相対性理論、カーボンナノチューブ、人工知能の 13個であった。知られている単語には天文・生物・環境の用語が多かった。また、知られて いない用語(認知率30%以下)は、ダークエネルギー、量子効果、超弦理論、ボーズ・ アインシュタイン凝縮、フラクタル、トポロジーなど、文系で9個、理工で1つ (ボーズ・アインシュタイン凝縮)であった。 ブラックホールや宇宙膨張などは理工学部で100%が知っているはずだが、そうはなって いない。それぞれ10名弱の学生が「聞いたことがない」にチェックをつけた。うちわけは 留学生がごくわずかで、あとは日本人学生である。つけまちがいなのか、意味を勘違いし たのか、わざとなのか、理由は不明である。 1990年の調査(手書き記入)ではこれらの言葉は認知度100%だったので、今回も95%以上の 回答は、実質的に100%ととらえてよいと考える。今後の調査では、誤記入や、ふざけた記入 を避けるためには、講義時間中にアンケート記入のための時間をとり、その場で回収する 方が確実である。 また、この統計からわかることは、非常によく知られた科学用語であっても、知識がある とは限らないことだ。テレビや新聞でよく取り上げられる用語は聞いたことがあっても、 本を読まないので詳しくは知らないのが原因だと思われる。ビッグバンやブラックホールは 知っていても、天文学をきちんと勉強すれば必ず出てくるハッブル定数や白色矮星は 知らない、あるいはDNAは知っていてもRNAは知らない(文系)といった傾向がみられるのは 2002年の調査結果と同じである。 「準惑星」の認知度は文系・理工どちらも54%だった。2006年には冥王星の「降格事件」が あり、社会がこの問題でたいそう盛り上がったが、「準惑星」という用語は騒ぎのかなり 後で制定され、認知度がいまいち低い。準惑星は高校の地学の 中で出てくるが、理工学部の学生はほとんどが高校地学を履修していないので、認知度が 低くても不思議ではないだろう。むしろ習っていないわりには知られていると言うべき かもしれないが、全く習っていないはずのダークマターの方が知名度も人気(興味度)も高い。 ダークマターの方が学問的にも重要であり、科学雑誌やマスコミにとりあげられる機会が 多いからであろう。 数学用語があまり知られていないのも、新聞やテレビでとりあげられる機会が少ないことを 反映しているだろう。グラフェンは2010年のノーベル物理学賞で有名になったが、認知度は、 文系では14%、理工でも39%と高くない。ノーベル賞でも受賞者が外国人だと あまり騒がれないからだろうか。 ボーズ・アインシュタイン凝縮は、高校までの学校教育では習わず、マスコミにもほとんど 出ない専門用語なので、物理学が好きで自分で積極的に本を読んだりしないと、なかなか 知るチャンスのない言葉である。今回の調査ではじめていれてみたが、文系理系で1割前後も あった。特に文系の1割は理工と比べて多いと言えるだろう。文系と理系の差は、 学部にはとらわれず、コアな物理ファンはどちらにもいると考えてよいだろう。 一般相対性理論は文系学生にもよく知られている。 物理学の講義で文系学生に一般相対性理論の講義をすると、非常にウケが良い。 「名前は聞いたことがあったが、どのようなことを明らかにする学問か わかってうれしかった」とか、「アインシュタインはそんなことを考えていたのかと 驚いた」などの感想が一般的である。このようにすでに多くの学生が 知っている科学用語であっても、実際にはよく内容を知らないことを 講義をすることは学生の知的欲求を満たすという点からも良い題材であると言える。 その意味で、どの科学用語の認知度が高いかを教員が把握しておくことは、自分自身の 講義のテーマを選ぶ際にも有効であると考えられる。 「フラクタルという言葉は初めて聞いたが、複雑さを定量的に比較できたりと 面白い概念を知ることができ、有意義だった」などの感想が学生から聞かれる。 複雑系の概念は経済学や社会学への 応用がすでになされていることもあって、文系学生にとって身近であり、 今後の専門科目の勉強とのつながりという意味でも、面白いテーマである。 さらに昨年度、雪結晶のフラクタル次元を求めるために、 雪結晶の生成実験を開発し、試験的に文系学生のクラスで実施した。 このように、文系や理工を問わず、認知度が低い科学用語は、 学生の今後の専門につながるように配慮をした講義の進めかたをしたり、 知的好奇心を掻き立てる実験テーマを開発すると効果的であると考えられる。 以上のような観点から、科学用語の認知度や興味度を見比べると、講義のやり方や テーマ選びにも利用できるものと期待できる。今後はそのような観点から、アンケートの 科学用語を選定する、というのも面白く意義のあることだろう。 男女を比較すると、天文や物理関係の用語では女性より男性の方が認知率が高く、生命や 環境関係の用語では、女性の方がわずかにしろ上回るものが目立つ。 特にホスピスは男女とも認知度が上昇したにもかかわらず、まだ差が文系理工ともに 10ポイントもある。この傾向は2002年の調査結果と変わらない。

10年前、20年前との比較

今回調査した科学用語36のうち、同じものが2002の調査に30個、1992年のには20個含まれ ている。そこでこの20年間の変化を図3と図4に示した。 まず今回の調査と比較して2002年からの大きな変化は、ダークマター、ニュートリノ、 カーボンナノチューブの認知度が大きく増えたことである。文系理工にかかわらず、 20ポイント以上増加した。特にカーボンナノチューブは文系で42 ポイント、理工で 50ポイント増加している。体内時計は1992年から2002年にかけて認知度が急増し、そのまま 認知度90%以上 を保っている。ホスピスは日本社会の高齢化がすすみ、報道でよく耳にする ようになったため、認知度が大きく上昇した。メルトダウンは20年前には認知度が半分以下 だったのが、いまやほとんどの学生が知っている言葉となった。いうまでもなく2011年3月 の福島原発事故の影響である。数学用語は、認知率そのものは全体的に低いが、理工では この20年間でトポロジーやフラクタルがじわじわと上昇している。 ホスピスは20年前に比べ、文系理工ともに知名度が2割から5割に上昇した。 高温超電導と常温核融合は20年前には大きな話題であり、社会問題として新聞紙上を 賑わせた。それが10年後の2002年調査では認知度が大きく減退し、文系・理工どちらも 半減したが、そのままわずかに下がっているようである。 核融合はともかくとして、高温超電導は1992年以後に研究が進展したが、新聞のニュースでは 取り上げられなくなり、知られなくなったままである。ハッブル定数や量子効果などと 同様、自分から積極的に知識を求めなければ耳にしない言葉の一つになったようだ。 認知率が文系で2割、理工で4割というのは、もしかしたら世間一般の科学知識のレベルを 表しているのかもしれない。ただし、そう結論するのはこの調査の範囲を越えている。 図3(下)と図4(下)には、興味をもつ割合がこの20年間でどう変化したかを示した。全体的に 興味をもつ人の割合が非常に増えている。その理由のひとつとして、アンケートのとりかたの 違いがあげられるだろう。1992年と2002年では、紙1枚に科学用語を並べ、「知っている 言葉」に○をつけてもらい、次に「興味のある言葉」に◎をつけてもらった。つまり、 同じ場所に○と◎が混在するわけで、用語にはすでに○がたくさんついているため、そこに さらに◎を加えなくてもアンケートを書き終えた気分になる可能性があった。そのため、 2002年には◎をつけるのを忘れないようにとの注意書きを最後に加えた。今回の調査では、 アンケート用紙に同じ言葉の列を2セット並べた。まず36の用語について、知っているか どうかをマークシート上にチェックし、次に同じ36の用語について、興味があるかを チェックしてもらった。そのため、「興味のある言葉」の数が以前より多くなる傾向が 多少はあると考えている。 図3、図4をみると、興味のある数が大幅に増えている。この増加量は上記の理由だけでは 説明がつかないので、興味をもつ学生の割合が圧倒的に増えたといってよいと考える。 どの用語も興味率が大きく増加しているが、特にこの10年で興味が大きく増えたものは、 宇宙関係(ビッグバン、宇宙膨張、ダークマター、ブラックホール、超新星、一般相対性 理論、ニュートリノ)のほか、カーボンナノチューブ、遺伝子くみかえ、人工知能、 文系ではそれに加えて国際宇宙ステーションと地球温暖化、メルトダウンが目立つ。 特に文系では過去の興味率が低かったせいもあり、増加量が大きい。 この10年で科学はぐっと身近かな存在になった。2002年には田中耕一さんがノーベル化学賞 を受賞し、サラリーマン研究者として科学研究者の存在がぐっと身近かになった。宇宙 関係で言えば、2002年には小柴昌俊さんが超新星からのニュートリノでノーベル物理学賞を 受賞し、超新星やニュートリノやダークマターなどがテレビや科学雑誌でさかんにとり あげられるようになった。2008年には南部陽一郎さん、小林誠さん、益川敏英さんもノーベル 物理学賞を受賞し、素粒子理論の詳細よりは、「変人」科学者という存在が好意を もって大きくとりあげられ、素粒子が身近な存在になった。また日本人宇宙飛行士が 何人も宇宙に滞在するようになり、宇宙へ行くことはもはや夢物語ではなく、こどもに とって実現可能な選択肢の1つとなっている(漫画でも宇宙へ行く兄弟の物語がヒット している)。小惑星探査衛星はやぶさの帰還物語は多くの人の関心を呼び、宇宙科学が いつのまにか、日本人好みのお涙ちょうだい物語とドッキングして大きな話題として とりあげられた。天体を観測するのが好きな女性をあらわす言葉「宙(そら)ガール」も できた。いまや新聞や一般の週刊誌でも、天文学や科学の記事が以前より頻繁にのる ようになってきている。 科学が大衆化するということは、純粋に科学的な興味ばかりではなく、その周辺まで 含めて興味が広がることをも意味する。10年前と比べて、科学にたいする興味が格段に 広がり、興味をもたれる時代になった。この調査は大学1、2年生を対象とした調査ではある が、そういう一般社会の動向を反映していると言えるだろう。

今後の調査にむけて

これまでみてきたように、10年、20年という長い時間でみると、学生の興味や知識が 時代とともに変化していることがわかる。 学生が知識を得る媒体は時代とともに変わっていく。科学知識をインターネットから得ること は20年前には一般的ではなかったが、現在は容易である。手段が増えると、学生の得る 情報量と内容は豊かになるのか、あるいは逆に貧弱になるのだろうか。インターネットの 世界には誤った情報があふれている(学生がよく引用する Wikipedia は間違いが多い)し、 間違った噂ばなしや迷信を広めるようなサイトは数多い。いったいどのような記事をどのよう に検索して科学知識を得ているのだろうか。この調査ではこれを明らかにすることはできな かった。今後の新しい課題として記しておく。 学生が情報を得る第一の手段としてのテレビ番組の質も気になる。20年前と比べて重厚な 科学特集番組は激減し(つまりコピーしてそのまま講義で見せられる番組はなくなった)、 NHKスペシャルのような特別番組ですら、夜ビールでも飲みながら科学を気軽に楽しむような エンターテイメント重視の番組に変わってきている。「最新の科学知識」を得る手段として 学生が思いうかべるのは、果してこのような「科学番組」なのか、もっとくだけた クイズ番組や娯楽番組なのだろうか。インターネットとは、ニュースなのか科学記事なのか 学者が書いたページなのか噂のページなのか、今後の調査では留意する必要があるだろう。 日吉キャンパスにおける学生の自然科学の知識調査は1992年、2002年および今年2012年 と続いてきた。文系学部や理工学部の1、2年生にとって、科学の最新知識を得る情報源は テレビ、インターネット、新聞の順に下がり、10年前と比べて新聞とインターネットの順番が 逆転した。これはインターネット社会の到来をつげているが、それがどのように質的な 変化をもたらすかの調査はまだ手付かずである。物理コンプレックスをもつ学生の割合は、 この10年間で大した変化がないにもかかわらず、文系理系ともに10年前に比べて天文学や 物理学を中心とする自然科学用語の知識度が大幅に上がり、興味を示す学生の割合も非常に 増えた。これも科学が一般に広まった科学時代の到来を示している。しかし「はやぶさ」の 感動物語が象徴するように、科学が一般に感動をもって受け入れられることと、科学的な 理解が広まることは別問題である。社会全体のゆるやかな動きが今後どのように変化して いくのか、その中で大学の科学教育はどういうものであるべきか、次回の調査を楽しみに したい。
関連文献:2002年の調査報告:大学一年生の物理への関心度と知識度調査 加藤万里子、小林宏充、鹿野川正彦 (慶應義塾大学自然科学紀要2004年)